第二十五話 いつの日か
三月。昨日で終業式が終わって、僕らは春休みにはいっていた。田舎の駅には、僕らの他には誰もおらず、ひっそりとしていた。
マモルとサユリは、入場券を手に、プラットホームまで僕についてきた。すでに、二両編成の小さな電車が止まっていた。この電車に三十分ほど乗って、大きな駅に行き、そこで特急電車に乗れば、三時間ほどで東京につく。
サユリの目が赤い。
「また、会えるのよね」サユリが言った。
「当たり前だよ。東京まで、五時間もかからないんだ。その気になれば日帰りだってできるんだ。楽勝だよ」
僕は、明るくそう言ったが、内心では、そう簡単ではないことはわかっていた。当時は、今のようにメールもなく、携帯電話も無かった。固定電話でさえも、全ての家にあるわけではなかったのだ。東京に帰ってしまったら、行き来するのは、簡単ではない。
「ドングリ、大事にしろよ」マモルが言った。
「それなんだけどさ。やっぱり置いて行こうかな。三つ揃えば何かの役に立つかもしれないし」
「いいんだよ。魔法なんか。それよりも大事なものがあるだろう。これは俺たちの絆だ」
とうとうサユリが声を上げて泣き出した。僕の頬にも涙が伝った。マモルは泣くまいと懸命に堪えている。だが、それも時間の問題だろう。
「それから」
マモルが何かを言おうとしたときに、プラットホームにベルが響き渡った。慌てて、僕は電車に乗った。
「それから、あの手帳も大事にしろよ。あれも、俺たちの友情の証なんだから」
ドアが閉まる。列車はゆっくりと動き始めた。マモルが何かを言っている。でも、僕にはもう聞こえない。
ただ、不思議なことに、その時、マモルの言葉が僕の頭の中に直接響いた。
「そうだ。もしも、俺たちに子供ができたら、あの手帳を渡そうぜ。そうやって俺たちの友情は永遠に続くんだ。魔法なんかなくたって、思いは、時を超える。じゃあな。タケル。また会おうぜ。」
最後にマモルの声が聞こえたのは、もしかしたら、ドングリの魔法かもしれない。
遠ざかる駅のホームで必死に手を振る二人の姿が見えた。しかし、やがて、線路のカーブとともに消えていった。
マモル、サユリ、またいつか必ず会おう。俺たちには、明日があるんだ。
終わり




