第二十二話 古墳
翌日は、よく晴れた一日だったが、相変わらず、古墳の周囲はジメジメとしていた。だいぶ秋も深まり、草の勢いは一時期に比べれば、収まってはいたものの、まだまだ、深く茂っていた。
その草に埋もれるようにして、石碑はあいかわらず、ひっそりと立っていた。しかし、数メートルまで近づいたときに僕らはその異変に気付いた。
「これ、前きたときと違っていないか」マモルが言った。
「全然違うわよ。だってこれ、読めるじゃない」
確かに、それは以前とは全く違ったものになっていた。前回来たときには、微かに、お化け捜査官という文字が読めるだけだったが、今は完全なる文章が石の表面に綴られているのがわかった。
お化け捜査官へ
諸君。お化け捜査官の諸君。
これは、僕からの伝言である。おおよその事情はわかっているものと思うが、夕子は無事、元の世界に戻ることができた。
僕も無事だ。ただ、僕が今生きているのは、君たちの世界よりも二百年以上も昔の世界だ。信じられないかもしれないが事実だ。
でも、決して僕を助けに来ようなどと考えないでほしい。幸い、幕府の中で地位を得て、今は、楽しく暮らしている。以前よりも裕福なくらいだ。
もう少しこちらの世界を楽しんだら、いつか必ず、そちらの世界に戻るつもりだ。だから、君たちは、君たちの人生を楽しんでくれ。
もちろん、お化け捜査官としての、職務も忘れないように。
また会おう。水野。
「これって、水野さんからの手紙ってことなの?」サユリの驚きも無理はない。
「これを、二百年前に、僕らに宛てて書いたのか?」
「いや、そんなはずはない。だって。この文字見てみろよ。二百年前にしては新しすぎると思わないか?」
確かに、文字はくっきりと読める。
「でも、そうだとすると、水野さんは何のためにこんなものを書いたのかしら」
「さあな。でも、これは水野さんのいたずらだよ。おそらく何か事情があって、ここを離れることになったんだ。それで、ちょっとしたイベントを思いついたってことさ」
マモルが楽しそうに笑っている。僕は久しぶりに、マモルの本当の笑顔を見た気がした。水野さんに何があったのかはわからない。本当に、二百年前の世界で生きている可能性だって、ないわけじゃない。でも、とにかく、こうして、無事であることを教えてくれた。
僕らは、今を生きていく。それしかないのだ。
「二百年前かあ。もし本当に二百年前にいるとしたら、幕府っていうのは、江戸幕府ってことよね。江戸幕府で水野と言えば?」
「水野忠邦」
僕と、マモルの声が揃った。最近、社会の時間に習ったばかりだ。
「いやいやいや。ないない」
僕らはそう言って笑った。まるで、森中が笑っているようだった。




