表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/25

第二十話 秘密

「そう言えば、夕子は、いなくなる少し前から、なんとなく変だったわ」

水野さんがいなくなってから、数日経っていた。マモルは相変わらず、いつもの元気から比べるとマイナス二十パーセントのような状態だったが、少しずつしゃべるようになっていた。

「変って、どんな感じ」僕が聞くとサユリが答えた。

「月を見てため息ついたり」

「そんな、かぐや姫じゃないんだから」

マモルを元気づけたくて、少しおどけた声を出してみた。横で、マモルが少しだけ笑った。

「やっぱり、双子のビーナスが発見されたあたりから、おかしくなったような気がするわ」


 僕は相変わらず、時々一人で秘密基地に行った。

 特に目的は無かったのだが、夕子の残していった白い椅子に座って、そこから街を眺めた。

 そこには、いつもと同じ風景が広がっていた。ここに座って、夕子は何を考えていたのだろうか。夕子にとって、ここから見える景色の、何が重要だったのだろうか。考えても、やはり何もわからなかった。

 突然、丘の下の方から僕に向かって、強い風が吹き上げてきた。思わず、目を閉じる。そのとき、唐突に僕の頭の中にあることが閃いた。

 もしかしたら、夕子は、ここから別の景色を見ていたんじゃないのか。

 座敷童の魔法は、夕子に別の景色を見せていたのではないだろうか。


 次の日。僕ら三人は久しぶりに、秘密基地に集まった。あることを確かめたくて僕がマモルとサユリを呼んだのだ。

「ずっと考えてたんだ」僕は椅子に座りながら言った。

「夕子は、ここで何を見ていたんだろうって。椅子を置いてまで見る必要があるのはなんだろうって」

「つまり、夕子は魔法を使って何かをしていたんじゃないかと、タケルは考えているわけか」

「その通り」

「でも、そんなの確かめようがないわよ。」サユリが言った。

「そうでもないさ。俺たちにも使える、ささやかな魔法があるだろう?」

僕は、自分のポケットから、ドングリを出した。続いて、サユリが、そしてマモルが手のひらに乗せたドングリを見せた。この日、僕は、二人にもドングリを持ってくるように頼んでいたのだ。


 3つのドングリを手にして、僕は白い椅子に座った。

 急に、丘の下の方から強い風が吹き上げてきた。思わず目をつぶる。そして、ゆっくりと目を開いて見た。

 何も変わらない。いつもと同じ風景がそこにあった。でも、ここまでは想定していた通りだ。こんなときに必要な呪文を僕らは知っている。


 もう一度目を閉じる。そして、呼吸を整えた。

「ひらけ」

そうつぶやいてから、ゆっくりと目を開けた。

「おおおおおお」

叫ばずにはいられなかった。風景は一変していた。今まで僕がいた世界は唐突に、全く別のものに変わっていた。


 遠くに、高い塔が見える。真ん中には広場があり、多くの人々が、それぞれに歩き、しゃべり、あるいは走っている。誰もが、見慣れない服装をしている。

 これは、夕子のいた世界か。

 一万年前、と言うよりは、近未来の世界を想像させる風景だった。

 左右を見ると、そこにいるはずのマモルもサユリもいなくなっていた。僕は別の世界に飛ばされてしまったのか。それとも、僕は今でも、丘の上の秘密基地にいて、映画を見るように別の風景を見ているのか。わからない。背中に冷たい汗が流れた。

 それでも、しばらく、風景を見ていると、徐々に冷静さを取り戻していった。

 真ん中に見える広場には、直径五メートルほどのサークルがあった。あれは、どこかで見たことがある。そうだ。遺跡のストーンサークルだ。しばらくそれを見ていると、ストーンサークルから、青い光の柱が立ち上がるのが見えた。

 あの日。

 お化け大会の日に見た風景と同じだった。その光の柱の中に、二人の男女が笑いながら入っていくのが見えた。次の瞬間、光の柱は、瞬きをするように明るさを増し、二秒ほどその状態が続いた後で、元の状態に戻って行った。そこにいるはずの男女の姿は消えていた。いや、かき消えていた。

 これは、夕子がやっていた瞬間移動の一種だろうか。いや。それよりも、もっと大掛かりな、時間さえも飛び越える装置のように僕には見えた。


 あの日。

 お化け大会のあの日。夕子は、遺跡で発掘されたあのストーンサークルの形をした装置を使おうとしたのではないだろうか。多分、あの装置を使って、元の世界に帰ろうとしたのか、あるいは、さらに未来へ飛ぼうとしたのだ。

 そして。

 そして、それは失敗した。数百年間、土の中に埋もれていたストーンサークルは何らかのトラブルを起こした。その結果、夕子は気を失って、ストーンサークルの傍に倒れているのを僕らが発見し、連れ帰ることになった。


 水野さんは。

何かのきっかけで、夕子がトラブルに巻き込まれていることを知ったのだ。そして、自分なら、彼女を助けられるんじゃないかと思ったに違いない。

 考えたら行動する。行動せずにはいられない。水野さんという人はそういう人だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ