第十九話 失踪
その日、一日は、僕もマモルも、授業をうわのそらで過ごした。マモルのパニックはおさまったものの、今度はいっさい口をきかなくなってしまった。
最後の授業が終わって、その後のホームルームが終わった瞬間、僕とマモルは教室の出口に向かって走り出していた。異変に気づいた担任が、僕らを呼び止めようとしたが、一瞬早く、僕らは廊下の角を曲がっていた。
そのまま昇降口には向かわずに、北側の森に面した渡り廊下を目指した。渡り廊下の塀を乗り越えて、外に出るのが、水野さんの家に行く、一番の近道だった。僕らはこの道を使うために、ランドセルの底に、運動靴を忍ばせていた。
段々畑の畦道を風のように走った。いつの間にか、秋の気配が風となって、あたりに広がっていた。マモルの背中を見ながら、水野さんが戻ってきていることを祈っていた。
水野さんの家に着いた。マモルは、そこに誰もいない気配を感じとって、落胆し、肩を落とした。相変わらず、鍵はかかっていない。部屋に上がってみても、そこに人の気配はなかった。
「大丈夫だよ。マモル。手紙があるんだ。これを信じよう」
しかし、気力を失ったマモルを元気づけるのは、なかなか難しかった。
「俺は大丈夫だよ」
しばらくすると、マモルが必死に声を絞り出した。
「でも、タケル。水野さんは帰って来ない。俺にはわかるんだ」
部屋の奥の一点を見つめたながら、マモルが言った。
「オルゴールを持っていった。今までは、そんなことはなかったんだ」
マモルが見つめる先には、いつもなら確かに存在していた、鍵のついた箱型のオルゴールがなくなっていた。そのオルゴールについては、僕も覚えていた。夕子からもらったドングリで鍵が開くかどうかを調べるときに使ったものだ。
マモルが感じていた異変は、オルゴールだけではなかった。具体的に説明するのは難しいものの、主人を失った部屋は、どこか寂しげな空気をたたえていた。その独特な雰囲気は僕にも感じることができた。
その後、マモルは一度も喋らなかった。僕も、何も話さなかった。




