表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/25

第十八話 水野

 「水野さんが消えた」

朝の教室にそう言いながら、マモルが飛び込んできた。教室には、僕とマモル以外に誰もまだ来ていなかった。


 早朝、誰もいない教室が僕は好きだ。なぜか、と言われると困るのだが、窓から差す新しい朝の光も、静けさの中に時々どこかから聞こえる、コトンという音も、真新しい図書館のような本の匂いも好きだ。とにかく僕は、朝はなるべく早くに登校して、その静けさを楽しむことを毎日の日課にしていた。

「じじむさい趣味だな」

マモルはいつもそう言って笑った。マモルはいつも遅刻ギリギリに教室に駆け込むのを、一種の趣味にしていた。奴には、朝の学校の中に宿る、侘び寂びの世界は一生わかるまいと思っていた。

 そんなマモルが、今日は、早朝の教室に駆け込んできた。

「水野さんが消えた」マモルが同じことを二度言った。よほど混乱しているに違いない。

「わかった。わかったから落ち着け。落ち着いてから話せ」

水野さんが消えた。マモルがそれを知ったのは、今朝のことだった。

「今朝、たまたま、水野さんの家に行ったんだ。そしたら、こんなものが卓袱台の上に置いてあった。」

それは、一枚の原稿用紙だった。見覚えがある。うっすらとした緑色のラインが引いてある、水野さんがいつも使っているものだ。そこに、ほんの数行の文字が書かれていた。その文字にも見覚えがあった。間違いなく、水野さんの筆跡だ。

『しばらく、家を出ることにした。急いで調べなくてはならないことができたんだ。もしかしたら、夕子の行方もわかるかもしれない。とにかく、また、戻るから心配するな。』

そしてその数行離れたところに、

『俺がいなくなっても、お化け捜査官としての使命は忘れるなよ』

そう書いてあった。僕は、少しおかしくなって笑ってしまった。最後の一言のおかげで、緊迫した空気が一気に和やかになっている。この一行に、大人としての水野さんの偉大さを感じることができた。いつもはマモルと一緒にふざけていても、やっぱり、どこかで子供に心配させたくない、と言う思いやりの気持ちがあるのだ。

「どうしよう」

しかし、マモルはパニックを起こしていた。マモルは僕よりも水野さんとの付き合いが古い。古いだけでなく深い。そのマモルが、この文章の中に、何かいつもと違うものを感じているらしい。

「とにかく、落ち着けよ。大丈夫だ。心配するなって書いてあるだろう」

「だから心配なんだよ。これまでも、時々留守にすることはあった。でも、こんな手紙を残すことはなかったんだよ。心配するなってことは、多分、何か危険なことに巻き込まれてるってことだ」

マモルのパニックはしばらくおさまることがなかった。他のクラスメートが教室に入ってくると、いつもと違うマモルの雰囲気を見て、怪訝な顔をした。

「とにかく、落ち着け。そろそろ、みんな来るから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ