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第十三話 事件

「きゃー」

時々、神社の境内から子供の悲鳴が聞こえてくる。そして、その後には、大抵の場合、大人と子供が一緒になって笑う声が聞こえてきた。お化け大会は、本来の趣旨通り、盛り上がっているらしい。


「じゃ、行ってくるわね」

ポケットに覆面を忍ばせて、サユリは、暗い参道を社殿に向かって歩いて行った。彼女の後ろ姿は、あっという間に暗闇に溶けていった。

「じゃ、俺たちも行くか」

僕とマモルは、参道を大きく迂回して、森の中を社殿に向かって走った。サユリを追い越して、先に社殿に到着しなくてはならない。懐中電灯のうっすらとした灯だけを頼りに、森の中を走るのは、かなりスリリングな行為だったが、何とか無事に社殿の裏側に到着することができた。

 そこで、さりげなく大人のスタッフに混じって、サユリが来るのを待った。


 夕暮れ時、まだ薄明を残して始まった町内お化け大会だったが、終盤を迎えてあたりはすっかり暗くなっていた。参道の両サイドには、ささやかながらちょうちんが掲げられており、真っ暗ではなかったが、中途半端な照明は、かえって周囲の雰囲気を不気味なものに変えていた。

「来たぞ」

参道の端にサユリが現れた。伏目がちにしているが、よくみると、すでに、のっぺらボーの覆面をしているのが見えた。僕とマモルも、ポケットから腹面を出して、被った。僕は唾を飲み込んだ。その音が大きく頭の中に響いた。

 お化け役の大人がそっとサユリに近づいていった。彼は、これから自分が脅かされる側にまわるとは夢にも思っていないはずだ。

 予定通りだ。僕がそう思った瞬間、予想外の事が起こった。


 ドーン。

 どこか遠いところから、爆発音が響いた。

「何だ!」

驚いた僕らは、周囲を見回したが、特に変わったことは見られない。

「今の音、遺跡の方からじゃないか」マモルが言った。

そうだ。確かに、爆発音は東の方から聞こえてきた。それは、発掘中の遺跡と水野さんの家がある方向だった。

「水野さん、大丈夫かな」マモルの声は、高くうわずっていた。

「行ってみよう」

僕とマモルは参道に飛び出した。何が起こったのかわからず、キョロキョロと周囲を見回している大人達の横をすり抜けて、サユリのいる場所に向かった。そして、僕はサユリの手を取ると、そのまま、マモルに目くばせをして、水野さんの家に向かって走り始めた。


 参道脇の森に飛び込んだ。森の中には、細い道があって、それをたどるとすぐに、段々ばたけの畦道に出る。このまま走れば数分で遺跡に到達できる。月のない夜だったが、西の空には、夕暮れの名残りの薄明が残っていた。天頂付近には、明るい三つの星が輝いていた。

 

「水野さん!」

水野さんの家は、いつも通りみすぼらしかったが、異常は無いようだった。ただ、そこに水野さんの姿はなかった。呼んでも、なんの返事もなかった。

 水野さんの家が無事なのを確認すると、僕らは遺跡の発掘現場に向かった。この辺りで、爆発の可能性がある場所は、そのくらいしか考えられなかった。


 ドーン。

 二度目の爆発音がすぐ近くで響いた。間違いない。遺跡で何かが起こっている。

「あれ、何だ」

遺跡で何かが光っていた。直径五メートルほどの光の柱が、天に向かって立ち上がっているのが見えた。そこは、間違いなく発掘中の遺跡の中央付近だった。

「誰かが倒れているわ」サユリが言った。光の柱の近くに、誰かが倒れている。

「夕子だ」マモルが言った。

おかっぱ頭に、赤いスカート。間違いない夕子だ。

 僕とサユリよりも数歩早く辿り着いたマモルが、夕子を抱き上げた。

「気を失ってる。ここは危ない。離れるぞ」

マモルは、夕子をおぶり、その両サイドをサユリと僕で支えながら、何とか僕らは遺跡から離れた。そこに、水野さんが現れた。

「誰だ。お前達。そこで何をしている」水野さんが叫んだ。

「僕だよ。僕と、マモルとサユリだ。水野さん、夕子が大変なんだ。助けて」

その時、初めて、僕らはまだ、覆面をしたままだったことに気づいた。僕は覆面を取った。少し遅れて、マモルとサユリも覆面を取った。

「びっくりしたよ。覆面した三人組が、爆発現場から逃げてきたように見えたんだ」水野さんは言った。

「とにかく、家に運ぶんだ」


 水野さんの家に着いても、夕子は目を醒さなかった。おそらく外傷はない。どこからも血が出ている様子はなかった。でも、もしかしたら、頭を打っているかもしれない。医者に見せたい。僕はそう思った。

「医者はまずいよ。というか、夕子は大人には見えないんだから」

「でも、水野さんには見えるんだろ。だったら医者の中にも見える人がいるかもしれない」

「それなんだけどな」水野さんは言った。

「俺にも、いつでも見えるわけじゃないんだ。例えば、さっき、お前達が覆面して現れた時な、あの時、俺には夕子の姿が見えなかった」

「どういうこと」

「つまりな、お前達と夕子が一緒にいる時だけなんだ。俺に夕子が見えるのは。あの時は、お前ら、覆面してたから、俺は、お前達だとわからなかった。そういう場合は、夕子も俺には見えない」

「じゃあ。医者にもちゃんと説明すれば見える可能性はあるってことじゃん」

「多分な。俺はお前らを友達だと思ってる。それと同じ気持ちに医者がなれば、その医者には夕子が見えるはずだ」

「・・・・」

みんな黙ってしまった。それは難しいと思った。大人と友達になるなんて。そんなに簡単なことじゃない。


 僕達は、仕方なく、夕子を布団に寝かせて、様子を見ることにした。


 次の日の朝、夕子は忽然と姿を消していた。

 新聞には、昨日の爆発のことが小さく載った。見出しにはこう書かれていた。

「遺跡発掘現場で謎の爆発音。現場から、覆面をした三人の人物が逃走」

爆発音以外に、なんの被害も無かったため、世間では、特に重要な事件とは考えられていないようだった。僕らが目撃した、光の柱については、何も書かれていなかった。でも、僕らは見たんだ。天空を貫く、一筋の光を。あれは、何だったのだろうか。

 そして、夕子は。

夕子は、どこに消えたのだろうか。

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