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第十一話 お化け大会

 七月になっても、発掘は続いていた。僕はほとんど毎日、水野さんの家に出かけ、その時に、遠くから発掘現場を眺めていた。遠くから見ると、父さんは、いつも地を這っているように見えた。強烈な夏の日差しの中、土を刷毛で払いながら、少しずつ、少しずつ、発掘を続けているのだ。東京で学者をやっていた頃の父さんは、どちらかといえば、ひ弱で、青白い顔をしていたが、今はすっかり日に焼け、腕にも筋肉がついていた。


「夕子の魔法ってさ、『ひらけ』だけってことはないよな。サユリ何か知ってる?」

マモルのこの言葉は、唐突に思えたが、実は前から僕が疑問に思っていたことでもあった。

「そう言えば、夕子って最近見ないな」

「家にもいないわよ」サユリが言った。

「でも、きっとまた戻ってくるわ。一ヶ月くらいいなくなるのは珍しくないの」

「で、どうなの? 他にできる魔法って」珍しく今日のマモルはしつこい。

「今のところ聞いたことないわ。なんでも願いを叶えてくれるわけじゃないし、ドングリをくれたのも、一度だけだし。どうしたの? 何か使いたい魔法があるわけ? 」

「もしかして、俺の夢が叶うかもしれないと思ったんだ」

「夢? 夢って?」

「今はやめておくよ。今度、直接、夕子に聞いてみる」マモルの顔が、心なしか、赤くなっているように見えた。


「ところでお前達、自分の仕事を忘れちゃいませんか?」

水野さんがこんな喋り方をする時は、何か面白いことを企んでいる時だ。

「仕事って、俺達は子供だぜ。あ、宿題はちゃんとやってるよ」

「オー、ノー。なんと言うことだ。忘れたのか。お前達はお化け捜査官じゃないのか?」

「いや、忘れちゃいないけど、なかなか、ネタが転がってないし」

笑いながら僕は言った。山に天狗が出るとか、川に河童が出るとか、そんなに簡単に、お化け捜査官が活躍できそうな話は、実際、転がっていなかった。たとえ、ここが東京ではなく、長野と言えども。あ、そういえば座敷童はいたっけ。


「そこで、今日は、こんな話を持ってきた」

バーンと言う感じで、水野さんはテーブルの上に、一枚の紙を広げて見せた。A四のその紙には、デカデカと

『度胸試し(お化け大会)のお知らせ』

と、書いてあった。

「ああ、それな、知ってるよ。毎年、町内会がやる子供騙しだ。これがなんだっていうの」マモルがちょっとつまらなそうに言った。

「さすがに、小五にもなって、これに参加はないんじゃないか」

「誰が、参加だよ。お化け捜査官がやるのは、当然、お化け役だ。脅かすの、俺たちが」


 水野さんは、毎日、家にいて何もしていないように見えるが、実は、小説や、詩なんかを書いて、生計を立てているらしい。一部では、『漂泊の詩人』などと呼ばれ、結構有名なのだ。それを知った、町内会の人たちが、お化け大会を盛り上げるいいネタはないかと、相談に来たらしい。

「実は、もう、引き受けちゃったんだよね。俺達がプロデュースするって」

「俺達って言った?」

「そう、この夏の度胸試しは、俺達、お化け捜査官がプロデュースすることが決まりましたあ。パチパチパチパチ」

「勝手にまたそんなことを。別にいいけど」

「開催は夏休みだ。まだ大分時間があるし、俺達がやるのは、あくまでも、アイデアの提案だ。実際に、セット作ったり、お化け役をやるのは、商店街に得意な人がいるらしいから、気楽にやってみよう」


 その日の夕方。僕らは早速、お化け大会の会場となる神社を見に行った。水野さんの家から歩いて十五分程の山の中にある神社で、僕らの遊び場の一つなのだが、日が暮れてから来るのは始めてだった。近くでヒグラシが鳴いている。日は暮れたばかりだったが、周囲を囲む大きな樹々のせいで、境内はすでに暗かった。

「これは。思ったより怖いところね」

サユリが言った。確かに、ここに夜一人で来るのは怖いかもしれない。

「そうか? 三年くらい前までは、俺も、度胸試しには参加していたんだけど、怖いと言うよりは、面白かったけどな」

 マモルによると、度胸試しのスタートは、神社の南側にある鳥居で、子供達は、一人ずつ、そこから歩いて社殿に向かうのだという。社殿にはお札が置かれており、それを持って帰るのが、子供達に与えられたミッションだ。

「途中に、何人か、お化け役の大人がいるんだけど。なんと言うかなあ。子供からしてみれば、人間だって事がバレバレだから、むしろ、ホッとするんだよなあ。俺は、むしろ誰もいない方が怖いと思うんだけどな。」

「それいいじゃん。今年は、お化けなしってのはどうかな」


「君達は、わかってないねえ」

僕のアイデアは、水野さんに一蹴された。

「マモルみたいに、肝の据わったガキばかりじゃないからな。お化けの正体がバレるくらいでちょうどいいんだよ。それにな。お化け役の大人には、子供を守るっていう役割もあるんだ。」

つまり、大人は、子供を適度に脅かしつつ、子供の安全を見守るのが、役割と言うことだ。なるほど、マモルが怖がらなかった理由がわかった。

 しかし・・・。

「俺ら必要ねえじゃん」マモルが言った。もっともだと僕も思う。

「君達は、わかってないねえ。この際、子供を脅かすのは大人に任せちゃえばいいんだよ。僕らはさ、その大人を脅かすってのはどうだろう」

「水野さん、あなた、立派な大人よ」

「まあ、そうだね」

「水野さんのアイデア聞かせてくれよ」


 水野さんのアイデアはこうだ。僕らは、度胸試しを手伝う振りをしながら、実際には、お化け役の大人をビビらせる。つまり、一種のドッキリ企画と言うわけである。

「そんなことして大丈夫かな」

こんな時、僕はどうしてもおよび腰になる。心配性なのだ。

「タケル、心配するな。ちゃんと裏工作はしておくからさ」

水野さんが言った一言は、余計に僕を不安にさせた。


 その後、主に水野さんとマモルで計画は練られていった。

 こんな感じだ。

 まず、一通り、度胸試しを進行させる。ここまでは、普通にちょこっと子供達を脅かせばいい。大人も楽しい、子供も楽しい、いつものお化け大会だ。

 しかし、最後の一人の子供。これは一味違う。この子役として、僕かマモルかサユリが混じる。そうして、『何らかの方法』で大人を脅かすのだ。つまり、ここからのターゲットはお化け役の大人となる。

「何らかの方法って何?」サユリからの質問。

「まあ、それはこれから考えるよ」マモルは答えたが、まだ、これと言ったいい考えがあるわけではないらしい。

「夕子に頼むってのはどうかな。怖いぜえ。何しろ、ある意味、本物だからな」僕の言葉に、水野さんとマモルとサユリが同時に反応した。

「それはダメだよ。(サユリだけは、語尾がダメよ、だったが)」

「どうして」

「夕子の存在は、大人には秘密なんだ。それに、実は、夕子は大人には見えない」

「水野さんには見えるのに?」

「俺は特別なんだ」

「と言うより、夕子は、水野さんのことを大人だと考えていないんだろうな」

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