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七章 焔《ほむら》の追想
――――嫌だ、嫌だ、嫌だ。
幼子のように抵抗した。
――――思い出したくない、思い出したくない、思い出したくない。
精神が、赤く燃える煉獄の焔に包まれるのを感じた。
駄目だ、と本能的に思った。
必死にもがき、足掻く。
この記憶だけは封印しておかねばならない、と心奥にいる幼き頃の自分が忠告してくる。
ヤナギは、悲鳴を上げた。
しっかとヤナギを抱きしめているヤサカニの腕に強さが増す。
「ヤナギ様、お気を確かに。ヤサカニがおります。必ず、あなたをお守り致します」
彼はヤナギ以上に必死な形相をして、呼びかけてくれる。
「ヤ、サカニ……?」
ヤサカニの呼び声もあり、ヤナギは記憶の焔から逃げおおせそうになる。
しかし、その時、ヤナギの視界に剣の切っ先が見える。
瞳孔が開く。
そのもとを辿れば、紛い者ではないカガミがいた。
カガミは口を歪ませる。
その薄い唇から零れ落ちた名は、記憶の焔を煽る疾風となった。
「――――――キョウカ――――――」
怒涛の如く、抜け落ちていた記憶は、ヤナギを襲った。