五章 曙光射す
曙がやってくる。
兆しは日に日にはっきりと見えてくる。
「嗚呼、わかっていたよ」
己の憎悪や憤怒のために、ちはやぶる神へ傾倒した母を見つめて彼女は育った。
その母が生きている間中危惧していたことが現実になりつつあるのだと、彼女には察しがついた。
神の申し子達がこの浮世に降り立った。
自分や母のような代役者とは違う。
非常に強い光。
黎明の刻。
彼女は血塗られた唇を舌なめずりする。その動作は緩慢でいて、妖艶だ。
「神の力、か」
ふふ、と嗤う彼女はどこまでも浮世離れしており、不気味であった。
「申し子が神の力を受け継いだ時、人の世はどうなるのだろうね」
申し子――神を受け入れるに相応しい器。
それがかの神が渇望してやまぬものであるなど、見え透いたことだ。
彼女――――姫巫はたおやかな御髪を右側に寄せて、樫の木でこしらえた座椅子に腰を下ろした。
彼女は頬杖をつき、社殿の格子越しに見える天を眺めた。
蒼く滲むそれは、まるで涙の如く透き通っている。
姫巫が母から姫巫の座を譲り受けてより、早数百年が経とうとしていた。
「誰がおいそれと、ここまで守ってきた世を壊させようか」
空に向かって投げた彼女の言葉は、強い意志を含んでいた。
力強い眼光は、はっきりと叛旗の色を浮かべている。
「戦、反抗、大いに結構。それが人なのだから」
だからこそ、と姫巫は口を一文字に引き結ぶ。
彼女の両手に力が入る。
「わたくしは抗いましょうぞ。守るべきもののためなら、手段は厭わない」
――――ねえ、――――。
彼女は地上に生まれ落ちたばかりの、一人の赤ん坊の名を呼んだ。