表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/60

四章 知幾其神乎


 微睡みの中、男は彷徨っていた。

 自分が自分である意味を必死に探していた。

 ――――心などなくなってしまえばいいものを。

 半ば投げ遣りに、彼はそう吐いた。

 答える声はない。

 それはそうだろう。この夢の中には彼しかいないのだから。

『ハルセ』

『第一王子』

『救いの王子』

『〝神のかいな〟』

 己を呼ぶどの声も胸に響かない。言霊は耳を滑り、希薄な空気にしかならない。

 真に自分を必要としている者など、最初からどこにもいないのだと改めて感じる。

 いや、正確に云うならば、かつてはいた。

 〝ハルセ〟という人間を必要だと、慕ってくれていた者が。

『兄上』

 今だ脳裏に焼きついている幼い舌足らずなその声を思い出す度、胸の芯がじんとする。

 火傷にも似たその熱さは、おさまることを知らずに心を侵蝕していく。

 もう、戻ることはない日々。取り戻せない過去の幸せ。

 これでいいのだ、と男は自嘲的に笑った。

 心の片隅にぞんざいに放った記憶は化膿し、生々しい痛みを彼に刻み続ける。



 ――――たすけて。


 伸ばされた小さな手を、掴む手はなかった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ