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二章 月水鏡剣《つきみずかがみのみつるぎ》

 かげは段々陰影を増していき、何かを飲み込んでしまおうと大口を開ける。

 夜に咲く真白き月華を見上げ、ムロは挑むようにそれを睨みつけた。

「あげない」

 秘めた決意の言葉は誰に向けたものか、彼自身しかわからない。

 さらりと抜かれた剣が、月光を浴びて鈍色に輝く。彼は悲しみのこもった眼差しでそれを見つめ、相貌を歪めた。

「師範、ムロは必ずやり遂げてみせます」

 自らをいましめるための呟き。

 最近王宮内は騒がしい。何かが起こる前兆である。

 乱れに乱れたこの高天原国に、また何かがうごめこうとしている。

 彼はもうこれ以上、何かが起こることが嫌だった。

 かりそめの平和、豊かな大地、知人らの笑顔。 これでいいじゃないか、とムロは思う。

 たとえかりそめの平和であるとしても、ここには笑顔がある。

 このかりそめの平和さえなくなってしまったら、世は混沌と化すだろう。

 一時の休息もなく、人々は争い続ける。

 やがてかりそめの平和は潰えるだろう。しかし、その時期をわざわざ早める権利は誰にもないはずだと彼は拳を握った。

 ムロは静かに市井に降り注ぐ星月の優しげな煌めきに、かの姫巫を重ねた。

 自らの幸せや笑顔を犠牲にしてまで国を守ろうとしている、高天原国が懐刀である姫巫、ヤナギ。

 ムロの目に彼女はたいそう美しく見えた。 潔いまでのその凛とした眼差しは、戦におもむく者たちの心を慰める。

 ヤナギが必死に護ろうとしている国を、おいそれと崩れさせるわけにはいかない。

 ふと、一陣の風が吹いた。

 生温いそれは、無数の枯葉をさらい、空に向かって舞い上がった。




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