序章 姫巫《ひめみこ》
割れ鐘のような響きが脳内に広がる。
少女は口許を押さえてその場に倒れ込んだ。
意識が朦朧とする。
睡魔に負けまいと下唇を噛みしめたものの、抗い難い眠気は彼女を侵蝕し、瞼を閉ざす。
「――姫巫。いずれこの国の行く末を握ることとなる運命の子供。今は夢に遊ぶがいいさ。いずれ定めの刻は来るよ、わたくしの後裔」
遠い意識の淵で、少女は声を聞いた。
酷く冷えた、氷のような女の声。
しかし、どこか憐憫も含んでいる声でもあった。
「触れるな」
低く、地表を這う声がした。
「誰が貴様如きに渡すものか。こいつは姫巫にはならん。即刻立ち去るがいい」
女に向かって誰かが言う。
怒気を含んだその言の葉は温かな言霊となり、少女の護りとなる。
「無駄だよ。もう抗うことさえ赦されていない、わたくしたち青草には、ね」
女は感情の立ち消えた声でなおも言い紡ぐ。
もう一つの声はそれを鼻で笑った。
「赦し、と。誰に赦しを乞うと言うのか。神にならば、もう既に赦されようとも思ってはいない」
轟音がした。
何かが大きな音を立てて崩れていく。
少女は夢と現の狭間で、浮遊していた。
最早、何の音さえ聞こえない。