(4)
一悶着あったが、今朝のお仕事も一応無事に終えて、職員たちは本部に出勤する。ロバートとぎゃーぎゃー言いながら飛んでいったゴンゾウを見送って、ガイはコルジといっしょにのんびり飛んでいくことにした。
「今週一週間、毎朝早起きしてみんなにご挨拶できるなんて、楽しいです!」
「元気だねー」
「はい! 元気です!」
「そっかー。それは何よりだ」
ぽふぽふと頭を撫でると、また誇らしげに素敵な笑顔を見せてくれる。いいコだ。懐いてくれていて、嬉しくもある。ただ。
「コルジが女の子ならもっと嬉しいんだけどなー……男だもんなー……」
思わず心の声が口から出て普通の声になった。
「え?」
「あー、いや、すまん、マジ気にしないで」
「? そうですか? でも俺、男じゃないですよ?」
「……え?」
コルジは素敵な笑顔だ。
「エンジェリアに性別はありませんから!」
エンジェリアに性別はありませんから……エンジェリアに性別はありませんから……エンジェリアに性別はありませんから……
ガイの脳内でリフレイン。そして。
「あ、ヤベ」
何かが始まりそうな気配がしてガイは頭を振った。
いかんいかん、俺は女の子が好きなのであって無性は「女の子」じゃない、うん、違う違う、違うったら違う。
「?」
かわいく笑う後輩の頭をもう一度ぽふぽふして、ガイは己の何かを守りきったのであった。
☆
「おはよう! コルジエルだ!」
ガイと別れて一課十二班に元気よく出勤したコルジは、いつものようにサンリとデルタに迎えられた。まもなくしてクラウデンもやってくる。今日も元気よく一日を過ごすのだ。ただ、今朝は早起きだったので、班長の判断でいつもよりお昼寝は長めとなった。
なお、翌日からの朝の航空安全週間活動でもコルジは大変元気に過ごしたのであるが、ゴンゾウじいさんとロバート氏の喧嘩(「コルジはわしの孫じゃあ! 近寄るでない!」「うるさい! ちょっと顔を見ていくだけじゃ!」というよく訳の分からない争いらしい)が絶えない一週間となったのは、当事者二名とガイのみぞ知ることである。
☆
「んぅ……」
朝。買い直したばかりの目覚まし時計のアラームをきちんと止めて、ガイはのそのそとベッドから抜け出る。
今日は航空安全週間最終日。早起きはつらかったが、かわいい後輩と朝から会えるのは楽しくもあった。
「ホント、女の子ならもっと最高なのになー……」
まだ半分寝惚けた頭でゼリー飲料をちびちびやりながら呟いちゃうのだが、寝惚けた頭はどうでもいいことを考え始める。彼は女の子が大好きだから仕方ないのだ。
(やっぱ女の子かわいいし……)
と、そこから脳内の起きている部分が、寝ぼけている部分に反論あるいはツッコミを入れ始めてしまった。
(いやコルジもかわいいか……いやいや、美人なコも好き……いやコルジはめちゃくちゃ美人だな……いやいやいや、女の子はいいニオイ……待て待て待て、コルジめっちゃいいニオイじゃん……いやいや、でもほらやっぱり女の子はやわらかくて……でも俺プラトニックでデートするだけでも楽しめる男だし……いや、だから、女の子はいっしょにいて癒され……あぁあエンジェリア……!!)
なんか駄目になってきた。寝惚けているとよろしくない。
滅多に自宅じゃやらない筋トレを一心不乱にこなして、頭から水をかぶって、いつもより早く家を出て、急上昇と急降下を繰り返して、雑念を振り払った。少しはマシになった。そもそもなにをどう葛藤していたのだったか。
「おはようございます! コルジエルです!」
「うん、おはよー」
いざ顔を合わせれば。
(あ)
ガイは心の底から安堵した。
そうだ、かわいい後輩に懐かれて嬉しいのに、なんか欲を出して贅沢なことを言っていたけど、それが贅沢じゃないかもしれないっていうことに危機感を覚えた話だった。いや、誤魔化さずぶっちゃけよう。もしかして今までまったく対象外だったコルジが、恋愛対象の範囲内に入っちゃうんじゃないかという心配だった。でもやっぱり顔を合わせれば、そんな心配は要らなかった。性別云々の前に。
(コルジ、こどもじゃん!)
大人としての保護対象だ。ある意味正しく保護種なのだ。
無邪気な後輩の頭を撫でてやってタスキのズレを直してやりつつ、やっぱりガイは己の何かを守りきったのであった。
(END)
ガイ先輩、セーフ!!




