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「!? フゴ!?」
「!? 一般市民に手を出しちゃダメでしょー!?!?!?」
飛び込んだ勢いのまま老人にキックをかまして吹っ飛ばしたのは、十二課のゴンゾウ・ゴンダワラ氏であった。思わず叫んでしまうガイである。
「わしゃ脚しか出しとらん!」
「そういう問題じゃなくて!」
「ゴンゾウ! 貴様か!!」
「ここで会ったが百年目じゃ! ロバート! 貴様のその見すぼらしい頭の羽根、毟り取ってやるわ!!」
「なんじゃとこのマダラハゲが!」
「なんじゃとー!」
「なんじゃー!」
「あああもうなんだこれぇ」
止める間もなく、顔見知りらしい老人たちの喧嘩が始まってしまった。
「はいはい、ストップストーーーップ! 落ち着いて、ほらほら、深呼吸。血圧上がりますよー?」
出遅れたが、ぜぇぜぇと肩で息をする老人たちを引き離す。喧嘩を止めるのも公安のお仕事だ。ていうか興奮のあまりぽっくり逝かれたりしたらとっても困る。今も飛ぶのがやっとの状態じゃなかろうか。
「しかしじゃな、ガイよ! こやつ、わしの孫のことを悪く言いおった!」
「ええと、コルジはゴンゾウじいさんの孫じゃないでしょ」
「似たようなもんじゃあ! だってええコなんじゃあ!」
「それは知ってます、とてもよく」
「フン! 耄碌じじいめ! エンジェリアなんぞに絆されおって!」
「あぁ!?」
「……あァ?」
またヒートアップしそうなゴンゾウと、腹の底からの低音になってしまうガイである。八課航空制圧部隊エリートの圧が直撃し、ロバート老も流石に黙った。
「ええと、ロバートさん? でしたっけ? ウチの後輩はあんたを含めた市民のために、毎日がんばってるんですよねー? あんまり失礼なことは言わんといてくれますか?」
表情はにこやかだが目は制圧時のソレだ。
「き、貴様ら、民間人相手に暴力と脅しなぞ、許されんぞ!」
「俺はなにも見てないですね」
「わしゃ耳が遠いんじゃあ」
「貴様ら……!」
「公安職員に対してご意見があるなら、相談受付までどうぞ!」
やたら整った顔でにっこりと業務用スマイルを浮かべるが、圧はそのままだ。
と、そこへ。
「ガイ先輩! ゴンゾウさん! そろそろ時間……あ、おはようございます! 公安のコルジエルです!!」
渦中の人物がやってきた。ロバートに元気よくご挨拶しているが、公安ふたりの顔色がサッと変わる。コルジにあんな悪意を向けさせてはならない! その前に……
アイコンタクトして頷きあうふたりがかなり危ない判断を下しそうになっていたが、ロバートの険しい表情がどんどん変化していく。いざ本人を目の前にして気圧されたのだろうか。中身はともかく、初見はあまりの美しさに圧倒される人も多い。
「ご出勤ですか!? お散歩ですか!? 今日はお天気がよくて風も強くなくて、飛びやすいですね! お気をつけて!」
ぐいぐい近づいていくコルジを前にして、ロバートは屈した。
「いいにおいじゃあ……」
「はい! よく言われます!」
太陽を背に満面の素敵な笑顔を見せるコルジである。ロバートの急な変化に驚く公安ふたりであるが、ガイはふと思い出した。
「あ。エンジェリア健康法……」
病める心も荒ぶる心も、エンジェリアの浄化と癒しの力の前には無力なのであった。




