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「お~、コルジおはよう。今日も元気でえらいえらい! それにいいニオイするな~」
「えへへ!」
見た目は立派な美青年だが、中身はたぶんかなり幼いであろう、神聖種のかわいい後輩の頭を撫でると、嬉しそうに胸を張った。ついでに、今回職員が着用する「航空安全週間」のタスキの文字が読みづらい位置にずれていたので、直してやる。鳥人はなんか翼のにおいとか気になりがちなのだが、コルジは本当にいつも翼からいい匂いがする。日向ぼっこしたくなる。
コルジは高高度を飛べる貴重な人材なので、同じく高高度を飛べるガイと、空の現場でいっしょになる機会がちょくちょくある。そして高高度の世界は大概平和である。暇になりがちなので、駄弁ることも多い。なのでコルジは頼りになるかっこいいガイ先輩に、割と懐いているのだ。
ガイとしても、いっしょにいるとなんだか癒されるので大歓迎だ。女の子ならもっと大歓迎なのだが。……そういえば一課の女のコと飲んだときに「エンジェリア健康法」なんて話を聞いたことがあった。一課の病み気味の連中が、そばにいるだけで回復していったというやつだ。強ち嘘じゃないかもしれないと思っている。
そんなこんなで、このふたり、意外と仲良しなのである。
「今日は元気にご挨拶するお仕事ですね!」
「うん、すっごい適材適所だと思う」
「がんばります!」
「えらいえらい」
今日もちょっとおしゃべりした後、それぞれの持ち場を回ることにした。お仕事である。
「おはよーございまーす! 気を付けていってらっしゃーい! はいはい、そこ、スピード出しすぎないようにね! お。おはよー! 久しぶりじゃーん! 今度また、どう? うん、連絡待ってるー」
ラッシュ時ともなると、高高度でもそれなりに人は通る。もうすっかり目も覚めたガイは、ちゃんと挨拶と呼びかけと見守り、ついでに仲良しのコとデートの約束などしつつ、遠くまでキチンと目を配るのだ。
『あれー? 職員さん? お仕事なんだねー。お疲れ様~』
そこへ、すっかりこの辺りでもお馴染みになった竜種が一体やってきた。たしか、リヴァイアサンとかいう名前だ。
「おはようございまーす。巨大樹ですか?」
『うん! いつも誰かしら居るからね~』
神聖種というのは、みんなそろって寂しがり屋なのだろうか? というのはちょっとガイが疑っているところである。コルジも誰かといっしょにいるのを好むコだ。
「あ、そうそう、コルジがここから東のほうを担当してますよ。顔を見ていったらどうです?」
『わ! そうするよ~。ありがとうね~』
リヴァイアサンはその場でリボンのように軽やかに回転すると、東のほうへ飛んで行った。
「……フン! 最近はこの辺の空も、すっかり竜やらエンジェリアの小僧がウロチョロするようになってしもうた!」
ガイの耳に、苛立たしげな老人の声が飛びこんできた。振り返ると、不機嫌そうな鳥人がひとり。
「……空はみんなのものですからねー?」
ちょっとイラっとしつつも、へらっと笑って返すと、老人はそっぽを向いた。エンジェリアの小僧とは勿論コルジのことだろう。そして彼のおかげで竜種がよく姿を見せるようになった。
街にはその竜種を一目みようとする人々が各地から集まり、経済は活性化した。また、公安本部(の巨大樹)に竜種が集まるため、街のあらゆる場所から公安へのアクセスが整備されたことで治安もよくなった。が、変化を望まない人間も多少いる。この老人はそのタイプのようだ。
「これまでどこぞに引きこもっておってロクに国に貢献もしとらんくせに、偉そうに。なにが神聖種じゃ」
ちょ~~~っと、ガイはイライラを我慢できなくなりそうになった。うちのかわいい後輩が公安でがんばっているのを知らないくせに。今もそこを市民のために飛んでいるのに!
「おい、じーさん」
「な、なんじゃ! 文句あるのか!」
思わず真顔になってしまった彼と、怯む老人の間に、
「こりゃ~~~~~~!! ロバート貴様~~~~~~!!」
ひとりの鳥人が恐るべき勢いで飛び込んできた。




