第二話 職員間家宅捜索~おうちに遊びに行こう!~(1)
公安部第一課第十二班。特に新しいお仕事がなかったので、各々溜まっていた書類の整理や毛繕いや羽の手入れや筋トレやお昼寝に勤しんだ日の、定時前のことである。
「そういえば、サンリくんは寮に住んでいるんだっけね」
書類を纏め終えたクラウデンが、筋トレ中のサンリに声をかけた。
「っす。え、なんですか急に」
「今度五課の連中が、初等科のこどもたち向けの公安部ツアーをやるそうでね。人手がほしいって連絡があったんだ」
「ん~、ガキどもの面倒は苦手っすけど……ていうか、五課はちゃんと人数いるじゃないすか。そんなにガキども多いんですか?」
「らしいよ。それに、折角だからって中庭でキャンプをするらしくてね。巨大樹の麓、ちょうどいいスペースあるじゃない? それで、BBQや夜間の見回りのお手伝いをしてもらえると……」
「!! キャンプ!! お手伝い!! やります!!」
特定のキーワードに反応したらしい。自分の翼を羽毛布団に、すやすやお昼寝(クラウデンに「ええと、大人しくお昼寝しておきなさい」と言われたのでれっきとした業務遂行である)をしていたコルジが元気よく立ち上がった。書類が舞う。
「泊まり込みになるよ? 大変だよ? やめておいたほうがいいんじゃない?」
遠回しに「外部のこどもたちがいるから、さすがに今回はちょっと遠慮してほしい」というクラウデンと、
「コルジ先輩が行くと余計面倒なことになりそうじゃないっすか。迷惑っすよ」
直接的にぶっ放すサンリであるが、これで話が通じるならコルジではない。
「大丈夫です!」
勿論根拠はない。
「夜勤明けで家に帰るの大変でしょう? その点、寮住まいのサンリくんはいいと思うんだけどぉ……」
デルタの援護射撃にも怯まない。
「大丈夫です、デルタ先輩! 俺の家まで飛んでせいぜい二十分です! 近いです!」
サンリはちらりとクラウデンに視線を向けた。クラウデンは頷いた。
「あ、コルジ先輩の家って、何処っすか?」
そう、話を逸らしてお手伝いのことを有耶無耶にする作戦である。以心伝心である。
「お! そういえばサンリを連れて行ったことはなかったな。というか、誰も連れて行ったことがなかった! 今日、来るか? お泊りしないか? 楽しいぞ!」
「先輩って、ひとり暮らしでしたっけ?」
「いや? でも家族はいつでも誰でも連れてきていいって言っているから、大丈夫だ! 部屋もベッドも広いし、大丈夫だ!」
「いっしょに寝る気っすか」
「楽しかろう? いっぱいおしゃべりしよう!」
「……」
このエンジェリア羽毛布団と寝るのはだいぶ精神的に疲れそうだが、空の上にあるという、エンジェリアの住居は少し興味がある。世間一般からみれば、御伽噺の世界なのだ。幸い、明日は休みだ。それに、コルジ以外のエンジェリアにも興味がある。種族的にアホなのかこの個体がアホなのか。
「じゃあ、お邪魔しよっかなぁ」
「よし!」
とてもいい笑顔で、コルジは拳を握りしめた。ばっさばっさと嬉しそうに羽ばたく翼が、辺りの書類を舞い上がらせたので、定時までの残り時間は皆で書類を集めることで過ぎるのであった。