(3)
そう思っていた時期もありました。
サンリはコルジの口周りを拭いてやりながら遠い目をした。楽しむ間なんかない。コルジの保護者にそんなものはない。
このアホエンジェリアは、食べ歩きでこぼした汚れが目立つ白い服に、爪先の露出した靴で人混みを歩くので、ひやひやする。今も口周りを咄嗟に拭かなければ、ばっちり服をソースで汚していただろう。
ちなみに、デルタは今、普段見られないような鋭い眼光で、射的屋のぬいぐるみを仕留めている。出店の担当者が泣きそうだ。そういえばデルタ先輩、射撃の成績滅茶苦茶よかったなぁ、とまた遠い目をして思い出しちゃうサンリである。
「サンリ! このたこ焼き? っていうの、美味しいぞ! さあ!」
「はいはいどうも。……ん、うまいっすね」
「だろう! 次はあれ食べたいな。かき氷! 練乳かけてもらえるそうだ!」
「はい走らない!」
いつものホルターネックではないため掴みどころが難しいが、なんとか引き留めていると、射的の担当者ににこやかに謝りながらデルタが戻ってきた。市民来場者のためにいくつか景品を返してきたようだが、小脇にしっかり大きな竜のぬいぐるみを抱えている。最近街は竜種グッズが大流行だ。
「お待たせぇ。かき氷、行くの? 私、抹茶練乳にしようかしらぁ」
「いいですね! 俺はいちご練乳にします!」
自然にデルタがコルジの右手を引いてあげると、コルジは左手をサンリに伸ばした。仕方なく握り返す。とても仕方なく……だったのだが、構図がちょっと親子(でかいこどもだが)っぽいので、「そうなると俺とデルタ先輩が夫婦……!?」と少し嬉しくなってしまうサンリ青年である。ちなみにデルタがコルジの手を引いたのは、先程コルジがテンション上がって駆け出して迷子になりかけたからだ。
三人並んで休憩用のベンチでかき氷を食べていると、辺りにざわめきが満ちた。
「あ! 竜のみんなだ!」
コルジが嬉しそうに掌で空を示す。色とりどりの竜種が旋回している。その先頭に、飛行の上手な六課職員がいる。例の竜種用スペースに案内しているようだ。
「後で挨拶に行ってもいいですか!?」
「ええ、そうしましょう」
「花火、そっちで見るのもありっすね。人少なそうだし」
竜種用スペースは、本部の数棟ある内のひとつ、その屋上である。一般市民には鎖されているため、人は少ない。
「うむ! 竜のみんなともいっしょに見られるな!」
コルジはもう素晴らしく素晴らしい笑顔だ。たくさんの友人に囲まれて花火を見られるなんて、最高に違いない。
かき氷を食べ終わると、三人は早速竜種用スペースへ。
入口の六課職員に挨拶してお邪魔すると、屋上の上は竜の坩堝だった。
「あら、来たのね」
竜種たちと酒を飲んでいるのは、当然のように六課第一班班長・キャロラインである。今日も長い睫毛が美しい。
「お~、お疲れさ~ん!」
何故か零室のダライアウツもいた。既にへべれけ気味である。
「こんばんは! おふたりも竜のみんなが大好きなんですね!」
「勿論よ!」
「ん~、好き好き~。浪漫~。竜のキーホルダーとか買っちゃうタイプだったよ俺~」
「ダライアウツさんの言っていることはよくわからないが、よかった!」
興味津々に祭りの様子を見つめていたり、職員たちが買ってきてくれた祭りの料理に舌鼓を打ったりしている竜種たちに挨拶しつつ、その間をすり抜けて、三人はキャロラインとダライアウツのもとへ移動する。
と、何故か急にダライアウツがコルジに絡んできた。酔っ払いである。
「お休みもいっしょって、仲良しだねぇ~」
「はい! 仲良しです! あ、レイコさんは?」
「昼にご家族と来てたよ~。息子さん、会ったことある? まだ三つだって。ちっちゃくてかわいかったよ~」
「ほお! いつかお会いしたいです!」
「てか、コルジくぅ~ん。今日はすごいお洒落だねぇ~?」
「ありがとうございます!」
「神々しくっておじさん天に召されちゃうよぉ~」
「コウゴウシ……? メサレ……?」
「んあぁ~こっちの話~。俺もさぁ! なんか格好良い服着たいね! マントとかどうだろう!」
「マント! かっこいい!」
「だろぉ~? ついでに大剣とか背負っちゃったりしてさぁ~」
「大きい剣の扱いは難しいですね!」
「でも浪漫~! ほら、俺の祖先って多分、伝説のデビルハンターだったと思うからさぁ~」
「デビ……???」
サンリとデルタはキャロラインに紙コップを渡され、酒のお裾分けをもらっている。
「……!? あらあらぁ~! これ、すごくいいワインじゃないですぅ?」
「わかる? うふふふふ、今日の班長打ち上げ会に持っていく用のやつ、こっちに回しちゃった」
「さすがです! うふふ、美味し~」
「でしょ? サンリくんも飲んで飲んで」
「えへへ。いただきます!」
年上の美女二人がお酒できゃっきゃしているのを見て、なんだか嬉しくなっちゃうサンリ青年である。




