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本日二話目の更新です

 いつの間にか眠っていた三人は、翌朝少し遅くに目を覚ました。

 昨日の内に教えてもらった近くの水場で必要な水の確保や身支度を済ませ、公安のふたりは帰る準備をする。


『寂しいのぅ〜。もう一泊しとかんか?』

「したいです!」

「あの、すみません。俺の体力と装備が足りないんで……」

『じゃあ無理は云えんのぅ……』

「あ! じゃあ俺達の宿に来ませんか? 露天風呂ありますよ! 温泉の!」

『なんと! 行ってもいいかの!?』

「はい! な! サンリ!」


 勝手に話は進んでいるが、サンリにも異議はない。実際世話になったからおもてなししたいし、調査対象から拠点に来てくれるなら、もっといろいろ正確に記録を取れそうだ。小屋に通信機器もあるし、本部にも連絡して日程を調整したり人を派遣してもらったりもできるだろう。


「うす。露天、トネリコさんも入れそうな広さだったし……ちょっと小屋前の草を刈れば、休める場所も確保できるかな」

「よし! 草刈り、がんばる!」

『楽しみじゃのぅ~!』


 また竜の背に乗って、今度は宿まで戻る。

 この日、いつもより多くの目撃情報が公安部に寄せられたのであった。


 宿についたら、荷物をおろして早速コルジは草刈りを始め、サンリは風呂と食事の準備に取り掛かる。食材はトネリコから少し分けてもらっている。宿の台所にいくつか調味料も備えてあった。トネリコが室内に入れないため、玄関先でバーベキュースタイルがいいだろう。

 その間、トネリコは近くの木の上に器用によじ登って『ほぉ~』とか『へぇ~』とか言いながら、宿を観察していた。建築物に興味津々だ。


「トネリコさん! こっち、広くなりました!」

『おぉ、おぉ、ありがとうなぁ』


 トネリコがゆっくり寝そべられる広さの空き地が出来上がっている。気合を入れてコルジが刈った草を集めて、少し熱風の吐息を吹きかければ、トネリコ好みのふわふわした寝床ができた。


「お風呂も準備できましたよー」

『お! 早速いいかのぅ』

「はい! いっしょに入りましょう!」

「ええと、背中流しましょうか? ……どういう作法がいいんですかね? 竜のかたは」

『ほっほ、至れり尽くせりじゃのぅ。じゃが、儂らの鱗は硬いからの、洗おうとしたら多分、怪我をしてしまうわい』

「……あ! 閃いた!」


 コルジはびっくりするほど俊敏に飛んで行くと、風呂場の掃除道具入れからデッキブラシを二本持ってきた。


「これ! これ! どうでしょう!」

『どれどれ……ほぉ! これはええのぅ! ええ硬さじゃ!』


 ということで、コルジとサンリはふたりがかりで竜をゴシゴシブラシがけすることになった。


「えぇ……いいのかこれ……」


 絵面的に、というか、掃除道具でひとを擦って倫理的にどうなの? と思うサンリだが、磨かれているトネリコは非常に気持ちよさそうでとうとうヘソ天だし、磨いているコルジも、役に立ててとびきり素敵な満面の笑みだ。


『こりゃあええわい~~~。お、サンリや、ちょっとそこの下を強めに擦っておくれ』

「はい」


 トネリコの指示に従って擦ると、掌ほどの大きさの鱗が落ちた。


「わっ! 大丈夫ですか!?」

『うむうむ、古いのがなかなか取れなくての、すっきりだわい』

「かっこいい! きれい! これ、近くで見ると細かく光ってる! もらっていいですか!?」

『ええよぉ。縁が鋭いから手を切らんように気をつけてなぁ』


 竜の鱗。学術的にもかなり意味のあるものだ。コルジは無邪気に喜んでいるが、サンリはちょっと「これ提出すべきか? いやでも先輩絶対手放さないだろうなぁ」と悩んだ。業務命令を下されたら提出するかもしれないが、多分泣く。恐らく。確実に。


「ほらサンリ、石の断面みたいに、細かい粒子のキラキラがいっぱいなんだ!」


 正直鱗よりコルジの目のほうが喜びでキラキラしてるし。

 まあ本人が自慢すると思うので隠しておくことはできないだろう。さてどうするか。


『気に入ったかえ? コルジや、そいじゃ右の翼の付け根の上のほうを擦ってごらん』

「はい!」


 コルジが元気よくお返事して言われた場所を擦ると、また同じような鱗が剥がれ落ちた。


「わぁ!」

『そこ、よく生え変わるんじゃよ。左のほうもやってごらん』


 結局、トネリコが満足するまで磨いたら、鱗は五枚ほど手に入った。提出用も確保できて安心である。密かに自分の分も確保できて、ちょっと嬉しいサンリであった。

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