第一話 はじめての御使い(1)
同日二本目の更新です
「おはよう! コルジエルだ!」
公国公安部第一課第十二班。その部屋。就業時間五分前に、今日も元気よく職員のひとりが文字通り飛び込んできた。窓に併設されている鳥人用出入り口に、大きな白い翼を引っ掛けつつ、毎日元気よく名乗るそのひとこそ、コルジエル・コア・コーネリウス、愛称コルジである。
「うっすコルジ先輩」
黒と黄の縞尻尾を振って挨拶する、机にお行儀悪く足を乗せている彼は、サンリ・サン。虎の獣人と犬(柴種)の獣人のハーフだ。お行儀は悪いが、毎朝就業時間三十分前に来て、部屋の照明をつけたり郵便物を分類したりどこかの先輩がガラスに突っ込まないように鳥人用出入り口を開錠したりしているのは、他ならぬ彼である。
「うむ!」
今日もご機嫌に自分の机に向かうコルジ。翼にいろんなものを引っ掛けて落としたりしているが、本人は気づいていない。有翼人種あるあるだ。
「おはようコルジくん。今日は班長の机にお花を活けてるから、気を付けてねぇ」
のんびりとした美しい声は、デルタ・デラ・デラウェア。山羊の獣人である。横に長い瞳孔がミステリアスでチャーミングだ。
「はい! デルタ先輩!」
「お返事はいつも素敵なんだけどねぇ」
「コルジ先輩は三歩歩く前に忘れるのに、鳩の鳥人じゃないのが不思議っすよね~」
「こら、そんなこと言わないの。めっ!」
「えへへ」
「? よくわからんが、サンリが嬉しそうでなによりだ!」
三人がわちゃわちゃしているところに、
「僕としては今日も皆が楽しそうでなによりだ。おはよう」
落ち着いた声の男性がやってきた。
「おはようございます! 班長!」
「うぃっす班長」
「おはようございます~」
そう、彼こそがこの公国公安部第一課第十二班班長、クラウデン・クラリッド・クラウデンである。最近生え変わった立派な角をぶつけないように気を付けつつ、馬の耳と鹿の尻尾をかわいらしく動かしながら、自分の席に座る。自然と他の三人も彼の前に集まる。朝礼のようなものだ。
「いつも思うが、他人行儀だな。気安くクラウデンと呼んでくれ」
「はい! 班長!」
元気にお返事するコルジはともかく、他のふたりはいつものやりとりに曖昧な笑顔を浮かべている。当のクラウデン(名か姓かは各自の判断)はにこにこしている。楽しそうで本当になによりだ。
「そうそう、今日は外でのお仕事が入っているよ」
「おお!! 何処ですか!? 何ですか!?」
身を乗り出し翼も広げたコルジの横で、素晴らしい反射神経を駆使してサンリが花瓶をキャッチした。
「零室の応援だよ。レイコさんはヒュームインフルエンザでお休み、ダライアウツは出張中」
「あー。あそこふたりしかいないですもんね」
この班も四人しかいないが、それはそれである。
「そういえば昨日、レイコちゃん大変そうだったのよねぇ」
「お手伝い! がんばるぞ!」
「うんうん、いいお返事だ。頑張っておいで。サンリくん、一緒に行ってあげて」
「うっす」
「デルタくんは僕と一緒に書類の整理を頼めるかな。定例報告書がそろそろアレなんだ」
「締め切りやばいんですねぇ。いいですよ。私、零室案件には向いてませんからねぇ」
「助かるよ。あとあれが向いてるのはコルジくんしかいないと思う」
「そうですねぇ」
「??? とりあえず行ってきます!」
「あ、資料とかは?」
飛び立とうとしたコルジの首根っこを捕まえつつ、サンリが尋ねる。慣れ切った挙動だ。
「零室のお部屋。レイコさんの机の上にあるということだ」
「了解。コルジ先輩、陸路で行きますよ」
「うむ!」
サンリに手を引かれ、コルジは満面の笑みで部屋を後にするのであった。