幕間 ゴールドマンと素敵な劇場 (前編)
やあやあ、ようこそ我らが劇場へ。
おや! 先週来てくれたエンジェリアのコルジエルくんじゃないか。芸術が気に入ったのかい? ……ほぅ! それは光栄だ。では今日も、より楽しめるような解説をしなくてはね。
ところで、今日はお連れの方々が違うんだね。ふむ、先輩たちかい。劇場に連れてきてくれるなんて、よい先輩たちに恵まれたね! 三人ともお洒落で実によろしい。
では開演の前に、ご説明をば。今日の公演は「ジュリオとロミエット」という古典劇。古典といっても、かなり親しみやすい演目だよ。ただ、劇の時代背景を知っているとよりわかりやすく楽しい。今回の舞台は今からおよそ七百年前……もしかしたら、コルジエルくんのご家族は実際に過ごした時代かもしれないね? ……おや! じゃあ帰ったら、ご家族に聞いてごらん。劇よりもっとずっと正しくご存知かもしれないよ。
少し脱線したね。続けよう。主人公はジュリオとロミエット。ふたりは互いに長年反目しあう家に生まれた。……詳しくは劇の内容に触れてしまうから言わないけれども、当時は家……一族ともいうけどね。その家と家で敵対しあうことも多かったそうだ。……そうか、エンジェリアは皆仲良しか! とてもよいことだね。じゃあ益々想像しにくいかもしれないけど、そうだね、例えば、おいしいパンを作るパン屋さんが町に二軒あったとしよう。どちらが町の人たちにより多く買ってもらえるかで、喧嘩しているようなものだと思えばいいよ。ライバルとして切磋琢磨しあうのならいいけれど、この劇の二つの家は、互いに悪口を言いふらしたり、時に暴力をふるったり、とにかく仲が悪かったんだ。
さて、そんな中、ジュリオとロミエットは惹かれ合ってしまって……というのがこの物語の肝だ。ふたりの恋はいったいどうなってしまうのか……楽しんでおくれ。
衣装も当時のものを再現しているから、そこも注目してみるといい。今とどんな風に違うか、服飾職人たちの工夫の歴史も垣間見られるよ。
それに今回は劇団も、楽団も素晴らしい! どちらもここ十年で一番おすすめだ。楽しい部分の軽やかさ、鬼気迫る状況の緊迫感……演技と音楽が見事に融合している。特に最後の……おっと、ここは楽しみにしてもらいたいから、黙っておこう。ふふ。
さあ、そろそろ幕が上がるよ。いっしょに楽しもうじゃないか。
☆
コルジがサンリと初めて劇場にきた次の週末。コルジはシキとガイに連れられて、再び劇場を訪れていた。
招待券をくれたシキに、身振り手振りでどれだけ素晴らしかったかを興奮気味に伝えたら、「じゃあ、今度は、演劇を鑑賞してみるか?」と誘われた。ついでに「演奏会、すごかったですね!!」と、感動を共有しにいったガイにも誘われたので、三人で行くことになったのである。
シキとガイは個人的にいっしょに遊んだことがなかったので、互いになんだか新鮮だ。
「お待たせしました! コルジエルです!」
「待ってないから大丈夫だよー。んー、コルジに正装は、やっぱり映えるねぇ。すごく似合ってて綺麗だよ」
「ありがとうございます! 執事が用意してくれました! ガイ先輩はかっこいいです!!」
「ありがとー!」
劇場前に集まった三人は、密かに注目の的だった。なんせ三者三様に見た目が良い。素晴らしく良い。
鳥人対応のタキシードは、シャツもジャケットも背中が広く開いてはいるが、翼の間に装飾品を垂らして、肌の露出面を減らすと同時に、引き立てる。その背中の装飾で個性が出るといってもいい。
コルジのタキシードは白を基調としているが、髪と瞳の色に合わせた青緑の縁取りがされていたり、同じ色の刺繡がさりげなく施されていて、上品で爽やかな印象だ。タイと背中の装飾は青緑のレースになっていて、コルジがテンションアガっちゃうと出てくる光の植物の葉や蔓に似た模様が編まれている。執事の自作である。徹夜で張り切って頑張りました。
ガイは白に黒のメッシュが入る髪と併せつつ色の割合を逆転させ、細身の黒いジャケットとズボンに白いシャツと一見シンプルだが、ジャケットには生地と同じ黒い色の糸で翼をデザインした刺繡が施されており、近くで見るとその質の良さがわかる。タイは淡い黄色で、ガイの種族であるインドガンの嘴を意識したカラーリング、背中の装飾は淡い金色の繊細な鎖と透明な細かい水晶を組み合わせたもので、素肌が微かに煌めいているかのような質感が色気を感じさせる。女子は思わず二度見してガン見して頬を赤らめちゃう仕上がりである。インドガンだけに。
「……おかしくないだろうか?」
「シキさんもかっこいいです!!」
「うんうん、似合ってる。ていうか俺が選んだから当然似合う! ……いいなぁ、俺と違って身体の厚みがあるから、やっぱベストがイイ感じにむっちりと……」
「……ありがとう」
シキはがっちりとした身体を、シンプルな黒の上下にベスト、グレイのシャツで包んでいた。やや褐色の肌に、よく似合う。ちらりとのぞかせたチーフは金色の瞳に似た濃い黄色だ。タイは、ガイの遊び心とシキの雰囲気で、黒のループタイを選んだ。留め具は琥珀。……あまりにむっちりしすぎてなんかいやらしい、とガイが普通のタイを却下したのはないしょである。ないしょったらないしょ。
シキが持っていた正装は、普段着ていないうちにサイズアウトしてしまっていた。がっしりむっちり鍛えたためだ。そのため、ガイに相談したところ、ふたりで先に待ち合わせしてシキの服を買いに行ったのである。実質、着せ替え人形になった。
コルジの賞賛には素直に礼を言いつつ、ガイの点検したり羨んだりする視線からはちょっと逃げた。慣れない。
「……そういえば、親切な幽霊がいるのだったか」
話題を変えてみる。コルジは嬉しそうに頷いた。
「はい! ゴールドマンさんです!」
コルジ曰く。
劇場の二階客席の一番後ろに、三十五年間も居座っている、アフリカゾウの獣人の幽霊がいる。彼の名はゴルゴリオ・ゴールドマン。名前で呼ばれるとなんとなくゴリラの獣人のイメージが付いてしまうので、ゴールドマンと呼んでもらうのを好む。ゾウの獣人らしく恰幅の良い紳士で、生前から二階の客席の、大型種族用の席を好んでいたという。
芸術に造詣が深く、愛する劇場と芸術を心行くまで堪能したいという未練があったため、この世に留まったようだ。恐らく、劇場が無くなるまでは留まるだろう。
「今日もご挨拶に伺おうと思います!」
「うん。俺もご挨拶しよう」
「いいね。俺も解説をお願いしたいなー」
そして三人はゴールドマン氏とご挨拶し、コルジを介して他ふたりも解説に与ったのである。
ちらっと前の幕間で、ドレスアップして三人で観劇に行ったと書いちゃったら、なんかこう、そこ掘り下げてみよか? ん? って自分でなりました。楽しいです。




