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(2)

「皆さんと共に任務に当たるのは、久しぶりですね。よろしくお願いします」


 現地調査の当日。一課零室室長、レイコ・レインは十二班の面々に丁寧に頭を下げた。さらりとした黒髪が背中から肩の前へ滑り落ちる。


「はい! 俺のほうこそよろしくお願いします!」


 コルジも元気よく頭を下げた。細かな羽根が舞う。


「ふふ。コーネリウスくんは霊的な面でも頼りにしてますよ? 幽霊の仕業なら、いっしょにがんばりましょうね」

「はい! がんばります! では舟に乗りましょう! さあお手を!」


 コルジはレイコの手を取って舟に乗り込む。なんとなくコルジはレイコに「おかあさん」を感じているようで、特になにかしらお手伝いしたいのだ。コルジに甘いレイコはにこにこしている。


「!! 使える……!」


 それを見たサンリは


「デルタ先輩! お手を……」


 デルタに手を差し伸べようとしたが、


「調査用の舟も、結構風情がありますねぇ」

「そうだね。今回の件で最近空いているらしいから、実際に使われているものを借りられたよ」


 山羊の獣人らしく軽やかな足取りで、既に舟に跳び乗っていた。馬と鹿の獣人であるクラウデンも同様に。


「サンリ、手を貸そうか!?」

「や、いいっす……」


 サンリは独り寂しくするりと舟に乗り込んだ。

 

「じゃあ、行きますよ」


 協力してくれる民間人の船頭が、岸をぐっと力強く蹴り、舟は進み始めた。





  左右を黒黒とした山に挟まれ、広く緩やかな川を往く。舟の温かくやわらかな灯りが際立つ。耳には静かな水の音。これでコタツに入って飲食をしながら、時折船頭の歌や説明を聴くのは、中々楽しいだろう。色気もなにもないウェットスーツを着込んだ面々は、早く事件を解決して楽しんでみたいと思った。コルジは今も関係なく楽しそうだが。


「この辺りはまだ事故は起きてないんですが、どうします? 周辺を調査すると伺ってますが」


 しばらく進むと、船頭が一旦舟を漕ぐ手を止めた。鵜の鳥人である彼は、そのまま水に落ちたとしても泳げるため、軽装である。


「そうですね、では一旦この辺りで探ってみます」


 クラウデンは暗い水面をじっと見つめている。暗いが、舟の灯りもあり、確かに影などがあれば分かる。キャロラインの言った通りだが、一応自分たちでもちゃんと確認しておく必要があるだろう。


「コルジくん、照らしてくれる?」

「はい!」


 コルジが少し身を乗り出して、光の環を出した。船頭はかなりびっくりしていたが、デルタがのんびんりやんわりした口調で説明している。


「はは、やっぱりすごく見やすいね。……ん、結構深さがあるか。ちょっと潜ってみるかな……」

「あ、俺行きます」


 サンリが立ち上がって軽く手足を振って準備する。クラウデンが頷くのを確認すると、ほとんど水音を立てずに冬の川に滑り込む。


「すごいなサンリ! 海獣みたいだ!」


 何故かコルジが嬉しそうである。だがちゃんとサンリの位置を把握して、見やすいように光の環の角度や明るさを調節する。便利なエンジェリア電灯だな、とサンリは潜りながら思った。


(……周りに特に異状はない。舟自体も綺麗なもんだし……なにかデカいものが流れてるでもなし……)


 確認して、一旦浮上する。異状のない旨を報告すると、クラウデンは頷いて手を差し伸べた。サンリを労いながら引き揚げる。引き揚げられたサンリは、タオルを広げて待ち構えていたコルジが捕獲した。先輩ぶってわしゃわしゃと拭いている。


「じゃあ、進もうか」

「……少し待ってください」


 そこに、レイコの制止が入った。


「? レイコちゃん、何か感じる?」

「ええ。……コーネリウスくん、左右の山から、大きな手が川に向かって出てきてるの、視える?」

「あ、はい! おいでおいでってしてますね! 歓迎でしょうか!」


 ふたりの会話に他が慄く。想像するととても禍々しいのだが。あと多分歓迎ではない。


「うふふ、そう思えるなら楽しくていいわね。でもね、霊の中には悪い人たちもいるから、おいでってされてもすぐついて行っちゃダメよ?」

「わかりました!」

「えらいわ。……船頭さん、周りの山は、建国後にも大きな内乱のようなものがあったと聞きました。本当ですか?」

「え、ええ。丁度もうちょっと進んだ辺りで、お客さんたちにも説明するんです。八百年程前に、左右それぞれの山に住む人間たちが、陣地争いのようなことをしたんです。ヒューム同士だったと伝わっています。この川も戦場になったとか。それで、今回の事故続きでしょう? その怨霊たちに引きずり込まれているのだ……という噂が出てしまって」

「なるほど……強ち根も葉もない噂とは言い切れないかもしれません。あの手がその合戦由来の怨霊たちのものなら」


 レイコとコルジはその「手」を見上げている。他の面々は視えない。その中では一番視えるはずのサンリは、目を凝らしてやっとなにか巨大なモヤがあるように視えるくらいだ。


「川って、ネコ科の獣人はあんまり好まないものねぇ……トラは別として」


 デルタが何か納得したように呟く。ネコ科の獣人は霊を視やすいと一般に言われているし、実際その傾向が強いが、彼らの中には身体が濡れるのをあまり好まないものが多い。そのため、彼らはわざわざ客として川にくることもなく、公安職員も水辺に強い職員を選んで派遣していたこともあって、レイコやコルジからすれば明らかな霊的存在も、見過ごされてきたのだろう。


「そうね……それに山から出ている手が原因なら、川の中をいくら調査しても分からないはずよ」

「なるほどね……とりあえず事故の多い一帯まで進んでみよう。レイコさんとコルジくんは、その手の動向に注意して」

「はい」

「はい!」


 視えなくて怖い面々と、視えていて緊張するレイコ。そして視えていて興味津々のコルジは、巨大な手の手招きに吸い寄せられて往くのであった。


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