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ふたりもホールへ入る。入り口では、聴覚の鋭い種族用に、音量調節用イヤホンなどの貸し出しもあるが、ふたりには必要ない。二階の自由席用の招待券だったので、そこの鳥人や大柄な種族に適した席に向かう。幸いにして座席数に余裕があったので、サンリも同じ区画で問題なかった。コルジの希望で、一番後ろの席にする。
「じゃあ開演の前に、おばけさんを探してみる!」
「……まあ、お好きにどうぞ……」
「うむ! あ、いらっしゃった! こんばんは! コルジエルです!」
「近っ!?」
コルジは後ろを振り向くとすぐ挨拶をした。居る。言われてみればサンリもなんとなく影のようなものがぼんやり視える。
「え、ああ、なるほど。……あはは! 確かに! はい、ええ、そうですね……なんと! ありがとうございます!」
「え、なに話弾んじゃってるんすか」
「こちらのゴールドマンさんは、こちらの劇場に居座り続けて三十五年だそうだ! ここで行われる演劇なら、知らない演目はないと仰っている。演奏についても一家言あるそうで、今日の楽団の注目というか、聴くべきポイントを教えてくださったぞ」
「は、はぁ……」
「え? そうなんですか? 嬉しい! 俺、お歌も大好きです! 自分でもよく歌うんですよ!」
「えーと?」
「今日の演奏は途中で声楽家のお歌もあるそうだ。楽しみだな!」
「そ、そっすねー……?」
その後もコルジとお化けのゴールドマンさん、通訳を介してサンリの会話は続き、やたらとオーケストラの知識を仕入れたところで開演時間となった。ピタリと会話が止む。コルジもゴールドマンさんも鑑賞のマナーが素晴らしい。
(へえ、なるほど……ああ、これがあの……)
音楽にあまり興味はなかったが、先に聞いていた知識を基に鑑賞していると、なるほど興味深い。サンリも集中して聴き入る。幼い頃に居眠りをしたのが勿体ないと思えるくらいだ。
とても充実した時間を過ごせたが、声楽家の歌のところでコルジのテンションが上がってしまい、彼の周りに不思議な光の植物が咲き誇る一幕があった。なんらかの演出ということで(サンリとガイ以外の)皆がなんとなく納得したが、多分劇場関係者は首を捻りっぱなしだろう。
とりあえず無事に終わり、サンリは客席に沈み込んだまま余韻に浸っていた。大人のデートの一端を見た。これは大人の嗜みだ。コルジのように純粋に音楽を楽しむ目的なら気楽だが、デートに取り入れるとなると中々高尚。
「はい、ではまた遊びに来たときは、よろしくお願いします! あ、もし浄化されたいときは仰ってくださいね。……え? あ、そうですね! あはは!」
コルジはゴールドマンさんにお別れのご挨拶をしている。サンリも影に向かってぺこりと一礼し、席を立つ。
劇場の外は、もうすっかり夜だった。ガイたちは多分これからが本番なんだろうな……と考えてひとりで顔を赤くするサンリである。
とりあえず自分たちはディナーの予定もないので、ここでお別れだ。
「今日は楽しかったな! サンリ、ありがとう! シキさんにも改めてお礼を言わなければ!」
「そっすね」
中々充実した調査となった。若人のデートプラン妄想も捗るというものだ。
「では、また明日!」
「明日は休みっす。また明後日。おやすみなさい」
「うむ! おやすみ!」
コルジはばさりとひとつ大きく羽ばたいて、ぐんと空に舞い上がる。本当に見た目だけなら美しい。
光の環を出し、遠く高く飛んで行くのを見送って、サンリは帰路に就く。
いつかきっと、デルタ先輩をデートに誘うと夢見ちゃいながら。
ちなみに次の週末。すっかり劇場が気に入ったコルジは、シキとガイに連れられて、正装して三人で観劇(ゴールドマンさん解説付き)とディナーに行き教養を磨いた(情操教育とも言う)一方、サンリは寮生とグダグダな飲み会を開いて飲み潰れているのであった。
お洒落なデートには、まだまだ遠いようだ。
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