幕間 デートコース実地調査 (1)
さて、コルジとサンリがシキからもらったお年玉。
中身は人気のカフェのケーキ無料券と、劇場での演奏会の招待券。それに綺麗な模様の入った、良い香りのカードなどである。
さて、とサンリは悩む。
ケーキの無料券の期限はまだ余裕がある。演奏会は来週末。それぞれ一人分だが、独りで行く気はない。誰かの分を自分が払うとして、誰と行くか。
まずはやはり、デルタ先輩をお誘いしてみたい。が、勇気が出ない。自分が彼女に見合うほど立派な男では……まだ、そう、まだ、ない。それに普通に断られたらショックでどうにかなってしまう。多分寝込む。三日くらい寝込む。あられもなく泣いてしまうかもしれない。絶対まずい。
……また、彼には、将来いつか自分の分も自腹で、ちゃんと自分で決めたコースでお誘いしたいという生意気な気持ちもちょっとある。サンリはそういう男の子なのだ。
ではやはりサギリ。サギリはかわいい。世界一の弟だ。しかし今、友人たちとの旅行や、教授との論文の打ち合わせ、来年度からの実習や資格試験に向けての勉強会など忙しそうだ。流石真面目で優秀な弟だ。兄ちゃんは本当に誇らしい。
そうなると、いっそこの券を両親にプレゼントするというテもある。ふたりでデートでもしたらどうだ、と。それならもう一人分サンリが用意してもいいかもしれない。親孝行だ。
よし、そうするか。
サンリが決めたところで、
「サンリ! シキさんにいただいたオトシダマ、ケーキの券も演奏会の日に使うか!? 俺はいつでもいいぞ!」
すっかりいっしょに行く気満々の先輩が素敵な笑顔で話しかけてくるのであった。
「いや、俺、どっちとも両親に譲ろうかと……」
「! なるほど、親孝行か! サンリはえらいな! じゃあ俺も……あ、でもおとう様もおかあ様も街へ降りるのは苦手だ……」
「先輩、あの店のケーキ好きじゃないっすか。無理せず自分で楽しめばいいと思いますよ」
「むぅ。……じゃあ演奏会のときに、ご両親にサンリのことを色々聞こうかな!」
「あ」
それはなんかイヤだ。とてもイヤだ。小さい頃の自分ではどうしようもないやらかしを、何度も親に擦られるのは本当にイヤなのだ。おまけに話好きの母のことだ。色々盛るに違いない。そしてこの先輩のことだ。信じきってうっかりデルタ先輩に言ってしまうかもしれない。
「……やっぱり、俺が行こうかな……」
「お! いっしょにおでかけ!」
「これもイヤっちゃイヤだけど……まあ、うん、いつか来たる日のために、デートコースの下見ってことで……」
「ん? 調査か!」
「あー、はい、そういうことで」
そうして、来ることのない来たる日のために、デートコースの実地調査が決まった。
☆
当日。
「あ! アレックスさんこんにちは! コルジエルです! サンリいますか!」
コルジは公安の男子寮の前に降り立った。ちょうど門の前を掃除していた管理人・アレックスが出迎える。
「……こんにちは。少し待っていなさい、呼んでくる」
「はい!」
アレックスが中に入った十数秒後、洗濯物を抱えたもうひとりの管理人・アニーが玄関から出てきた。
「あらー! コルジくん、どうしたのー? サンリくんに用かな?」
「こんにちはアニーさん! サンリと遊ぶ約束をしているので、迎えにきました!」
「そうなのねー。今日はいいお天気でよかったわねー? 街に行くの?」
「はい! えっと、いっしょにカフェでケーキ食べて、劇場の演奏会に行くんです! 劇場、初めてです!」
コルジはうきうきで報告してくれる。アニーはそんなこどもがかわいくてたまらない。にこにこと応じる。
「いいわねー! 劇場、とても素敵よー? 昔夫とデートしたことがあるの。ロビーのシャンデリア、見てみるといいわよー!」
「おお! 情報提供、ありがとうございます! 見てきますね!」
「あと、通りに面してない方の出入り口の上にね、綺麗なステンドグラスがあるの」
「! ステンドグラス! 色がたくさんあってきれいなガラスですよね!? 見たいです!」
「うふふ! あ、そうそう、客席の二階部分の一番後ろに、幽霊が出てたわねー。悪い人じゃなさそうだけどね」
「わかりました!」
そこへ、アレックスとサンリがやってきた。
「あ! おはよう、サンリ! 今日は色々楽しみだな!」
「っす。てか、早くないっすか……? 待ち合わせまであと三十分くらいあるんじゃ……」
「! 早く家を出て出来るだけ速く飛んできたんだが、そんなに早かったか! しばらく待っていようか?」
「待ち切れなかったんすねぇ……俺もすぐ出られます。行きましょうか」
「うむ!」
コルジ相手にお洒落も必要ないので、特に準備するものはないのだ。ズボンのポケットにはハンカチの他に財布が入っているし、その中にチケット類も入れてある。サンリは管理人夫婦に見送られて、コルジを連れて街へ出向くのであった。




