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「おはようございます! 公安のコルジエルです! お届けものです!」

「おや!? あなたは……!?」


 サギリの通う大学。やってくるのは二回目のコルジは、ちゃんと受付の位置を覚えていた。えらいのである。それにお手伝いが嬉しくても、ちゃんと荷物を振り回さずにもってきた。学んだのである。

 しかし今は休暇中で、受付窓口は閉まっていた。たまたま受付近くの自販機で飲み物を買っている教授らしき人物と出会えたが、なんだかびっくりしている。その顔を見て、コルジは思い出した。


「あ! サギリくんといっしょにいた先生ですね! お久しぶりです!」

「ええ、お久しぶりです」


 ヒュームの教授は、眼鏡の位置を直しながらにこやかに挨拶を返す。多種民俗学の教授だ。


「今年もよろしくお願いします! あの、これ、共通暦のカレンダーです! 色々書いてあって楽しいです! どうぞ!」

「これはこれは。ありがとうございます」


 教授は穏やかな物腰を崩さないが、内心舞い上がっている、というか激しく踊り狂っている。エンジェリアだ! エンジェリアだぞ! と。おおっぴらに調査はできない保護種だが、会話から色々引き出すつもり満々だ。


「この時期は冬眠期間の獣人がなんとなくぼんやりしているので、不慮の事故やスリ、ひったくりなどが増えます。治安自体が悪くなりがちなので、ヒュームのかたは特に、十分にお気をつけ下さいね!」

「ええ、ご親切にどうも。公安さんも大変でしょう?」

「お気遣いありがとうございます! でも、これが仕事ですから!」


 成程、素晴らしい笑顔だ。職員としても立派な態度だ。しかしサンくんから聞いていた彼に対する印象と、実際に今目にしている言動から、ヒューム換算でかなり幼いと思われる。今もちょっと喜んで羽ばたいて浮いている。ふむふむ。


「そうだ、サンくんから聞いていますよ。竜種の皆さんと仲がよろしいとか?」

「あ! そうなんです! 友だちです! 大きくて美しい人たちです! かっこいいです!」

「いやあ、羨ましい。僕も公安本部にお姿を拝見しに行ったことがありまして……」


 美しい、か。心の底から同意する。あの鱗の艶、しなやかな体躯……美しすぎる。しかし他種族の感覚では、美しさより恐怖或いは畏怖を感じる者も多い。……エンジェリアはわざわざ種族大全に「美しい」と書かれている。主観は省かれるのが原則であるのにそう記載があるのはつまり、種族の違いを越えてそう感じさせる美しさがあるのだろう。これも超常なのかも……


 色々考える教授だが、しかしなんだか気持ちが和らいでほっこりしている。ついつい追究心も和らぐ。これがエンジェリアの癒しの力、と気付くのは、たくさんおしゃべりしたコルジが元気よく飛び去った後だった。





「ただいまもどりました! コルジエルです!」

「お、先輩もお疲れっす」

「うむ! サンリも!」


 コルジが元気に五課に戻ると、既にサンリも戻っていた。辺りを見回すと、少し騒ぎも落ち着いている。粗方配り終えたようだ。


「よし、じゃあお昼にしないか? 食堂にするか? 購買で買うか?」

「んー、今日は食堂の気分っす」

「うむ! 行こう!」


 にこにこと元気よく飛び立とうとするコルジの手を掴んで引き留めて、そのまま手を引いて食堂へ向かう。庁舎内では飛ばないように言葉や行動で注意しているが、テンションがアガると反射的に飛ぼうとして羽ばたいちゃうらしい。まあ、鳥人にもありがちなので、有翼種あるあるともいえる。その中でもコルジは極端だが。

 鳥人の多い託児所とか大変だろうなぁ、とサンリは常々思っている。サンリは大変だなぁ、と周りは常々思っている。


 食堂はやや空いていた。この時期は人気メニューの競争率も低くて、狙い目である。


「俺日替わりにします。先輩は?」

「お魚にするかお肉にするか……あ、でもあんまりおなかいっぱいだと、後でケーキが食べられなくなってしまうな! サラダボウルで!」

「なんか小洒落たもの食いやがる……」


 向き合って座り、今日の午前中にあったことをあれこれ互いに話していると、そこに馴染みの人物がやってきた。


「……ふたりとも今昼食か?」


 シキ・シマヅである。普段は手作りのお弁当が多い彼だが、珍しく食堂にやってきた。お盆には大盛りの丼物定食が載っている。


「あ! シキさんこんにちは! コルジエルです!」

「っす、ども」

「うん、こんにちは。いっしょに座っても?」

「勿論です!」


 コルジが飛び切りの笑顔で自分の隣を掌で示す。翼の邪魔になるだろうと気遣って、サンリの横に座ろうと思っていたシキだが、ご指名なら仕方ない。ありがとう、とコルジの隣に座る。途端に、ふわっと暖かい翼に身体が包まれる。ぬくぬく。


「そうだ! 家の使用人のみんなが、ケーキを作って持たせてくれたんです! 後で食べに来ませんか!?」

「ん、そうか。じゃあ、遠慮なく」

「はい!」


 大好きな人たちといっしょで、コルジは嬉しい楽しいランチタイムである。

 口の周りをシキに拭いて貰うコルジに、翼に包まれながらそんな風に世話を焼くシキを見た鎧系女子たちがぐぬぬとなったり、それを見て見ぬフリに徹するサンリだったり、概ね和やかにお昼の時間は過ぎていくのであった。

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