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幕間 新年をあなたとあなたとついでにあんたと (1)

ぎりぎり!

よいお年を!

 公安本部の年末は、人が少ない。ただでさえ冬眠休暇中の職員が多い。その中で、年末年始の数日間は交代で出勤し、一応自分たちの課の受付や、庁舎や周辺の見廻りをしたりするが、遠方の実家に帰る職員たちも多いので、出勤当番は主に実家暮らしの職員や、近場に実家がある独身の職員たちが担う。特別手当や別途に休暇がもらえたりするので、実は割と喜んで参加する者も多い。

 比較的近くに実家があり、割と頻繁に帰っているサンリもそのひとりだ。寮も年末最終日と年始初日以外は食事が出る。サギリとぬくぬく暖かい部屋でゴロゴロもしたいが、つい最近もいっしょに遊んだし、サギリも大学の友人たちと遊びに行ったり勉強するらしい。仕方ない。


「サンリ、いるか」


 そんなこの年最終日。見回りの後に十二班の部屋に戻ると、珍しくサンリに来客があった。


「あれ? シマヅ先輩、当番なんすね。ご実家は?」


 シキ・シマヅである。様々な獣人の混血と思われる彼は、近くにひとり暮らししている。


「ああ……実家は遠すぎるから、夏あたりにまとめて休みを貰って帰ろうと思っている」

「なるほど。あ、俺に用っすよね?」

「ああ、当番のみんなに配ろうと思って」

 

 よく見れば、シキは台車にコンロを載せ、更にその上に大きな鍋を載せて運んでいる。紙製の器、箸やフォークもある。手先の形状や食文化の違いに配慮しているためだろう。


「焼き餅入りの汁粉だ。甘めだが、平気か? 餅だけでもいいぞ」

「お! 疲れてたんで、おしるこで! 身体も冷えてたしありがたいっす。いただきます!」


 お言葉に甘えて、サンリはおしるこを頂く。箸を貰った。身体にも心にも沁みる。


「うめぇ〜……やっぱシマヅ先輩のおやつは最高っすね……」

「そ、そうか? ありがとう」


 少し照れるシキである。


「そうだ、寮は今日明日は食事が出ないと聞いた。大丈夫か?」

「あー……パンを買っておいたのと、確かパスタの乾麺あったんで、なんとか? 台所は使えるから……うん、多分」

「そ、そうか。……そうだ。後で蕎麦を湯がくが、食べるか?」

「え、ソバ……?」

「麺類だ。俺の里では、年末の夜に食べる風習があるんだ。年越し蕎麦と言ってな。休憩中に食べようと思って、材料を持ってきた」

「え、でもそれ先輩の分じゃ?」

「問題ない。誰かいたらいっしょに食べようと思って、少し多めに持ってきているから」


 やさしい……サンリは震えた。これがモテ男。


「じゃあ……またお言葉に甘えて」

「うん」


 微笑むシキにサンリは震えた。学ぶところが多すぎる。

 ひとまず、食事休憩の時間を合わせる約束をして、シキは持ち場に戻った。


 しばらく部屋で筋トレをしていると、また来客があった。


「おーい。 誰かいる〜?」


 零室、ダライアウツだ。


「俺だけっすよ」

「お、そっか〜。コルジくんはお家かな?」

「先輩はそうっすね、家で、使用人も含めて静かに過ごす習わしなんだそうですよ」

「そっか。まあそれはそれとしてサンリくん。酒飲まない?」

「勤務中」

「だよねぇ!? でもさぁ!? 年越しパーティーしたい!!」


 成人男性の駄々である。


「じゃあなんで出勤……ああ、まあ、レイコさんを出勤させるのはダメっすよね」

「ねー? 俺そういう気遣いできる男なのよ」


 レイコさんご一家は家族でまったりお過ごしである。流石にダライアウツもこの時期は出張に行かずに年末年始の当番に参加する。


「せめてお菓子とジュースで楽しもうと思ってさー。色々持ってきた! ボードゲームもあるんだけど!?」

「ゲームはしません」

「だよね!」


 仕方なくサンリは困ったおっさんに付き合ってお菓子とジュースをいただく。だいぶジャンクな味だ。


「……そういや、ダライアウツさんは里帰りっていうか、ご家族は?」

「あー、おふくろは死別、親父は生死不明、ってとこかな」

「……すみません」

「いいのいいの! かな〜り前の話だからね!」

「はぁ……」

「そんな話よりさ、これからの話が大事だよ! 俺ぇ、来年はちょっと長旅に出たいんだよね」

「しょっちゅうあちこち行ってるじゃないすか」

「今以上に! ほら、海を越えた先も。そういえば一課の、八班だっけ? ほら、シキくんの故郷とかも気になるなあ」

「あ、シマヅ先輩なら今日来てますよ。後でいっしょにソバ食べるんです」

「お! じゃあ俺もお邪魔しようかな。食べ物は俺お菓子でいいから」

「あと一時間十五分くらいで約束の時間なんで、そんときいっしょに行きますか」

「うん、そうしよう! パーティーだ!」

「パーティーじゃないとは思うんすけどね……」


 しばらく駄弁った後、ダライアウツはふらふらと出ていった。シキのところに行く前には戻ってくるだろう。菓子とジュースとボードゲームを持って。





 年越し蕎麦パーティー(仮)が始まった。シキは二人前を用意していたので、三人で分けると小腹を満たす程度となる。満たない分を、残りのおしること菓子が満たす。


「いや〜、結局俺までおソバ分けてもらっちゃった! 美味しい食事にありつけて嬉しい年末になったよ! ありがとね、シキくん!」

「いえ、これくらいしか出来なくて、申し訳ありません」

「いいんすよ、シマヅ先輩! すげぇありがたいです!」

「そうか」


 やんややんやと飲み食いしていると、サンリはふと気付く。そういえば変わった組み合わせの三人である。コルジを介してならちょくちょく行動を共にするのだが。

 自然に、話題は共通の人物、コルジのことになる。


「今年はコルジくんに世話になったからな〜。何かプレゼントあげようかな」

「俺も……です。俺の故郷では、年始にこどもにお年玉といって、小遣いをあげる風習があるんです。……やるかな」

「俺は逆にコルジ先輩から貰いたいすね」


 お年玉という名の世話代を。


「はは、まあサンリくんはいつも大変そうだからな〜?」

「偉いと思う」

「そりゃどうも。……あ、そろそろ年が変わりますよ」


 三人がそれぞれ自分の時計に目を遣る。


「カウントダウンだ! ……十、九……」


 ダライアウツのカウントダウン。


「三、二、一……」


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