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(2)

本日二話目の更新です。

幕間だからサクサクっと。

「ねぇねぇデルタ。エンジェリアって知ってる?」


 食前酒を盛大に噴き出しそうになるのを堪えつつ、デルタはいつものふんわりとした笑顔を取り繕う。


「う、うん、まあ、知ってるけどぉ」

「あ、絵本のことだと思ってるでしょ! ちゃんと実在するんだって!」

「うん、知ってるよぉ」


 なんなら今日も会った。今日は「いっぱいものを落とすけど、ちゃんと自分でお片付けできてえらいねぇ」と褒めてあげた。


「でも、急にどうしたのぉ?」

「それがね! 今日来たお客さんから聞いたの! 窓の外を見てたら飛んでるひとがいて、鳥人かと思ったら、頭の上に光る輪っかが浮いてたって!」

「あぁ、それは鳥人じゃないねぇ」


 コルジくん、普段は隠してるけど、光の環、あるものねぇ。

 デルタは、落とした綺麗なお菓子の包装紙を探そうと、デスクの下で煌々と輝く光の環を思い出した。今日見た。


「それでね、私、調べたんだよ。国家公式の種族大全みたいなやつ。ちゃんと載ってたの!」

「うんうん、ちゃんと調べてえらいねぇ」

「でしょお? すっごく稀少で、神聖で、しかも美しいんだってさ~。わざわざ大全的なアレに美しいって書いてあるって、相当じゃない? あ~、会ってみたいなぁ!」

「……意外と近くにいるかもしれないよぉ?」

「まさかそんな~! 雲の上に住んでるって話じゃん。どんな生活してるのかなぁ~」

「……すごく健やかで元気、だと思うなぁ」

「あはは! イメージに合わないよ~」

「うふふ」


 それはそう。と、デルタも思う。思っていた。


「まあ普通に暮らしてたら一生会うことはないよね。まあそれはいいとして……!?」


 そのとき。ふたりの視界の端に、やたら激しく動く何かの影が飛び込んできた。同時にそちら、窓の外を見る。


『デルタ先輩! デルタ先輩だ! こんばんは!』


 そこには、満面の素敵な笑みでぶんぶんと手を振る白い翼の青年がいた。うっすら声も聞こえる。ということは外ではかなり元気のよい声を出しているのだろう。


「あらぁ……」

「え、デルタ、知り合い?」


 若干引き気味である。友人よ、彼がエンジェリアだ。


「ええ、職場の後輩」


 微笑んで手を振り返すと、満足したのだろう。うむ、と頷いて、ばっさばっさと飛び去って行った。片手に紙袋いっぱいの、例の綺麗な包装紙のお菓子を抱えていた。今日、「これは美味しい! おじばあ様たちにも食べさせたい!」と言っていたから、買ってきたのだろう。

 お小遣い持ってきてたのかしら。えらいわねぇ。と上空に消えるのを見送ってから、デルタは友人に視線を戻した。


「え、あれで公安なんだ……そんな優秀に見えなかったけど……」

「元気で素直でいいコだよぉ?」

「まあかわいい顔はしてたけど……やっぱすごい人ってどこか紙一重ってあるのかもね……デルタもちょっと面白いとこあるし」

「えぇ~? そうかなぁ?」

「自覚はないんだ……」

「もぉ~」


 そこへ前菜が運ばれてきた。かわいくて綺麗な見た目にテンションが上がる。ふたりの楽しいディナーが始まり、エンジェリア云々の話題はどこか遠くへ飛び去ったのだった。ばっさばっさと。





 デルタ・デラ・デラウェアの夜は早い。


 ディナーをした日でさえ午後八時すぎには帰り着くと、お風呂に入り、丁寧に顔と体と髪を洗って、しっかり保湿。ハーブティーを飲んで軽くストレッチをして、あとはぐっすりたっぷり眠る。


 今日もよい一日だった。


 明日はどんな楽しいことがあるかしら。


(END)


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