第十七話 囮捜査案件、或いは執事血涙案件(1)
HoHoHo……
メリークリスマス……
※本文とクリスマスに関係ありません。
「おはよう! コルジエルだ!」
今日も元気にコルジエルだ。十二班のいつもの朝が始まる。
「おーぅ、邪魔するぜぃ」
だが、その日は来客があった。
「あ! ノース班長、おはようございます!」
「はいオハヨ」
八課一班班長、ノース・ノーマーシーである。かわいいおててでコルジに骨型クッキーを渡して、流れるように来客用ソファに飛び乗った。コルジもお礼を言って隣に座ってクッキーをガジガジ齧り始める。犬の獣人用クッキーはとても硬い。
「どうしたの? 制圧?」
クラウデンが尋ねる横で、デルタはメモの用意、サンリはお茶の用意を始める。
「いんや。今回はちと、五課と共同で注意喚起っつーかな。情報共有。冬眠明けの連中が戻ってくる前にコトが動くなら、手伝いを頼むかもしれねぇが」
「へぇ? 八課と五課が共同ってことは、広域でなにかやってるってことかな?」
「そ。ふたつあってな、ひとつはいつもこの時期のアレとか」
ノースは胸ポケットからさっと何かを引き抜く動作をした。
「ああ、スリの警戒ですねぇ~」
デルタの発言に、ノースはうんうんと頷く。ぬいぐるみのようで見た目はかわいい。
「そそ。ま、それ以上に忘れものや落し物が多いからな、五課が広報して回ってる」
冬眠性の獣人の一部は、この時期、なんとなくぼんやりしていたり注意力が散漫になったりしやすい。そのため、獣人のスリ被害が少し増えるのだ。とはいえ、犯罪者側も冬眠時期だったり、スリの標的にするならばぼんやりしている獣人より、通常状態のヒュームのほうがよっぽどやり易いので、増えるのは少しに留まっている。空き巣も少し増えるが、この時期限定のセキュリティサービスや自発的な見回りが行われたりしていて、それほど増加するわけでもない。
ただ、忘れ物・落し物が非常に増える。これには生活安全課として市民の窓口にもなっている五課がてんてこ舞いだ。
「要するに、『みんなしっかりしてくれ』ってヤツっすね」
サンリの言葉にみんな(クッキーを噛むのに夢中になっているコルジを除く)が頷いた。
「で、もうひとつがな、これ、ウチが捜査中に偶然知ったんだがなァ……」
ノースは顔を顰める。
「広域で誘拐事件が多発中だ。……俺の娘くらいの歳の、こどもが多いんだよ」
「なんですって!?」
コルジが立ち上がった。翼も広がっている。
「娘さんは、初等科の一年生でしたよね? 許せませんね!」
「だろォ? そんで近々、囮捜査を行うつもりでいるんだ」
「え? 囮って……」
こどもに協力させるわけにはいかない。いったいどうするつもりなのか。
「小柄な獣人職員。こいつらなら、ほかの獣人やヒュームから見ればこどもに見えるってことでな……」
「……」
コルジ以外の三人の視線がノースに向けられる。小柄な獣人だ。声は低くて野太いが。視線を向けられたノースは、かわいこぶって瞳を潤ませて「クゥ~ン」と鳴いてみせる。かわいい。が。
「……いやダメっしょ!? 俺からしたら普通に中年男性っすもん!!」
半分犬の獣人のサンリには通用しないのである。
「だよなァ! 犬系の獣人は多いからバレるよなァ! あと喋り声も無理があるだろ? 鳴き声はキュートだけどよ!」
「じゃあ、『鎧』のコたちとか、かしら……?」
デルタが最近仲良くなった八課の鎧系女子たちの顔を思い浮かべる。しかし、小柄でかわいらしいとはいえ、体型がちゃんと成人女性のコも多い。……そうじゃないコもいるが。
「おぅ、意外と都市部じゃ見かけない種類の獣人も多いしな、ウチのあいつらもちょっと駆り出すぜ。ロルルとか適任だな」
見事に「そうじゃないコ」の名前が挙がって、デルタはなんとも言えない顔になった。
「でもさすがに初等科一年生くらいにはみんな見えないでしょ……」
「そうなんだよなァ。まあ、多少被害者の年齢に幅はあるけどなァ……」
「あ! それなら……う、むむむ……!」
コルジが何かを思いついて元気よく手を挙げたが、珍しく言い淀んでいる。
「お? なんすか先輩」
あまり期待していないが、一応ちゃんと聞いてみるサンリである。
「いや……俺が囮になればいいんじゃないかと思ったんだが……だがそうすると……うむぅ……」
「いや何言って……あ!」
自分より身長が高くてそれなりに筋肉もある成人男性の姿かたちでなにを言ってるのか、と思ったサンリだが、エンジェリアの外見年齢のことを思い出した。操作できるのだ、彼らは。
「あ、そうか、そうだったね」
「ですねぇ」
「?」
納得するクラウデンとデルタに、ノースは首を傾げた。
「あー、ノース班長。エンジェリアって、外見年齢いじれるんすよ」
「ほぉ!」
ノースは面白そうにコルジの顔を覗き込んだ。
「でもお前さん、やりたくなさそうだなァ?」
「お手伝いはしたいんです……! ただ、俺、この姿じゃないと、公安の受験資格もズルになっちゃうので、本来の姿だと職員として働いてはダメなんじゃないかなと……!」
生真面目なコルジである。そして「本来の姿」がそんなに幼いのだということに、予想はしていても若干衝撃を受ける三人である。ノースは「そんくらいだろうなぁ」と思っている。
「あー……それはまあ、気にしなくても……?」
クラウデンからすれば「それは多分今更……?」というポイントである。色々やらかした後だし、接したことのある職員ならば皆コルジの中身は幼いと気付いているので、それくらいは納得してもらえると思う。
「そうですか!? それならば! お手伝い! したいです!」
信頼するクラウデンの(一応の)お墨付きをもらったので、気にしないことにしたコルジである。元気に挙手してお手伝いに立候補した。
「お~、そりゃこれ以上ないほど助かるぜ! 見目のいいこどもで、しかも真っ白の翼持ちってのは、標的になりやすいからなァ……」
被害者たちを思い出したのか、どんどん語尾が苦々しくなるが、ノースにとって願ってもいない助っ人である。本当にどうしようもないときは、最終手段として実際に自分が初等科の制服を着るつもりでいた。娘とおそろいである。それはそれでちょっと楽しそうではある、と思ったのは秘密だ。
「じゃあ詳しい作戦の内容は、決まり次第知らせるわ。頼んだぜぇ?」
「はい!」
素晴らしい笑顔でお手伝いを楽しみにするコルジであった。




