(2)
そのころコルジは、光の環で辺りを照らしながら、ゆっくりと寮の周囲を旋回して飛んでいた。こどもたちは大喜びだ。
「すごーい! このわっか、さわれなーい!」
「どうなってるのー?」
「うむ、俺にもわからない!」
「きらきらー!」
コルジの飛行は、本人の挙動とは正反対に、ゆったりと滑らかだ。羽ばたいているが上下にぶれないので、飛び方が巧みなのか、そもそも実は翼で飛行していないのかもしれない。翼のないタイプの竜種と似たようなものかもしれない。だが真実は本人も知らない。
「もう一周したら、部屋に戻ろう! 体が冷えてしまう!」
「えー!」
「もっとー!」
「まだまだー!」
「ダメだ、風邪をひいたら哀しいからな!」
「はーい……」
「あったかいごはんを食べよう!」
「うん!!」
四人が手を洗って戻ると、結構酔っ払いも増えていた。サンリは舟をこいでいる。間もなく寝てしまうだろう。横でサコンが料理を退けてやっていた。これで突っ伏しても平気だ。
陽気な酔っ払いたちは、アレックスとアニーを囲んでまだまだ「よかった」「おめでとうございます」「ありがとう」を繰り返している。酔っ払いだから猶更同じ話が繰り返されるが、みんな酔っ払いなので問題もない。
「ただいまもどりました! コルジエルです!」
「ただいまー!」
「まー!」
「ま!」
「おかえり~~~!」
「ほぉら、高い高いだー!」
こどもたちが元気に彼らに駆け寄ると、こっちも絡まれた。ちいさいこどもたちは寮生たちに抱き上げられて、きゃっきゃしている。
「ふふ、小さいころの自分を見てるようで、懐かしいわー。私も父が管理人でね? 小さいころから寮の人たちと生活してたのよねー」
アニーが目を細めてその様子を見守る。
「そうだったんですか! じゃあ、親子二代で管理人なんですね!」
「そうよー。私も高等科を出てすぐ管理人の資格を取って、しばらく父といっしょに管理人をしてたの。寮生だったアレックスと結婚して、彼が管理人になるまでね。あ、父は隠居して、母と外で暮らしてるよー」
「なるほど!」
「……お義父さんは厳しいが優しい管理人だった。尊敬している」
アレックスが会話に混ざった。
「自分が大怪我で一課を引退したときも、ずっと励ましてくれた。ああいう人に、なりたい」
「素敵なかたなんですね!」
アラガミ家の歴史に、コルジは感動している。
「……だがもし将来、アンジュが寮生と結婚したいと言い出したら、自分はお義父さんと違って自制心を保てる自信がないが」
「あはは! あなたったら~」
ちょっぴり周辺の温度が急激に下がった気もするが、アニーとコルジは気づいていない。
「それはともかく、コルジくん、飲み物のお代わりは? お酒がダメなコ用に、ワインみたいな葡萄のジュースもあるわよー?」
「はい、いただきます! さすがパーティーですね!」
ワインみたいな葡萄ジュースはちょっとなんだか大人っぽくて、背伸びした気持ちになっちゃうコルジである。
「そうだ! お祝いのパーティーなので、歌います!」
コルジは胸を叩いて背筋を伸ばした。
「あら! お歌得意なの?」
「はい! それに、エンジェリアはお祝いのとき歌います!」
「じゃあ、お願いしようか」
微笑ましく見守る夫婦と寮生たち。確実になにかが起っちゃうことが分かっている人物は、残念ながら机に突っ伏して眠っていた。
コルジの歌が始まると、
「!?!?!?」
その美しさに大人たちは言葉を失い、
「わぁ……!!」
こどもたちは目を輝かせた。
あと、寮の建物自体もその全てを輝かせた。
☆
「またなんかやらかしたんすか……」
しばらく寝ていたサンリが、周りの大騒ぎに目を覚ました。いや、まだ半分寝ている。
「? 歌を歌った! 寮が光った!」
「あー、歌ぁ……聴きたかったな……」
サンリはコルジのお祝い用の歌は大好きだ。おまけに眠いし酔っていてかなり素直だ。
「うむ! じゃあサンリのために!」
再びコルジの歌が始まった。サンリは己のためだけに歌われた贅沢な子守唄で、すやすやとこの上ない安眠を得た。かなりよい夢をみた。あと、輝いた。蛍の蟲人がこの場にいたら嫉妬するくらい輝いた。本人は知らない。本人だけは知らない。
☆
後日、寮の七不思議の内、「ボイラー室の幽霊」がなくなった代わりに、「怪奇! 発光眠り獣人」が加わったのは別の話。
また、管理人一家の三人のこどもたちが三人とも「将来コルジと結婚するー!」と言い出してアレックスが頭を抱え、アニーがおなかを抱えたのも別の話である。
(END)




