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寮の大浴場の湯舟は、一般の家庭に置いてあるそれの五、六倍程度の大きさだ。洗い場も含めるとそこそこ広い。とはいえ、コルジの家の風呂に比べれば断然狭い。あれはプールだ。
「ふぅっ……」
毎日毎日、これを一人で掃除していたアレックスさんはすごいなぁ、とサンリは素直に感心した。毎日綺麗で快適な風呂に入れて、とてもありがたい。やってみたらわかるが、ブラシで床と湯舟を擦るだけでもかなり足腰に負担がかかる。おまけに、獣人が多い関係で、様々な種類の獣毛が結構排水溝のごみ受けに溜まっている。サンリもなるべく体を洗った後は集めてゴミ箱に捨てようと心に決めた。
建物は三階建てだが、各階のトイレも、備品の補充を含めて丁寧に。先にコルジが立ち入ってくれていたようで、雰囲気が明るく匂いもない。なにかキラキラ光る粒子が残っている。あのエンジェリアがうきうきで探検した痕跡だ。エンジェリアはトイレを必要としないので、そもそもトイレ自体に立ち入ることすら探検だったのだろう。どんな種族だよ本当に、と今更ながら思うサンリである。ついでに、出さないのにいつもいいもん食ってるなー、太らないんだよなー、となんだか羨ましくもあった。
大浴場とトイレの掃除を終えると、もうすでに昼が近かった。なお、おさんぽというか探検というかを終えていたコルジは、今は台所でアニーのお手伝いをしている。夕食の仕込みだそうだ。意外と刃物を扱うのが得意なので、教えてもらった野菜の皮むきに夢中になっている。
「あ、サンリくんお疲れさまー!」
「お疲れさま! 見てくれ! にんじんの皮をきれいに剥けるようになった!」
「はいはいえらいえらい」
サンリも手を洗ってエプロンを借り、食材の仕込みに参加した。
「手慣れてるわねー? お家でお手伝いしてた?」
「はい。両親にいろいろ教えてもらいました」
豪快でがっつりとした料理を作る母、繊細な味付けで見た目にもきれいな料理を作ってくれる父、その両親のお手伝いをしながら、忙しい彼らがいないときでも、体の弱かったサギリに食べさせてやれるように、簡単な料理を覚えたサンリ少年である。
ちなみに、料理ができるとモテる(サンリ調べ。該当はシキ・シマヅとガイ・ガードナー)と確信したので、きっと自分はモテるようになる、と確信している。誤信だが。
「俺も今日教えてもらったから、執事たちのお手伝いができそうだ!」
「えらいねー!」
初対面だがすぐにコルジの扱いを心得たアニーが褒めてやると、コルジはえっへんと胸を張った。コルジの扱い方は、小さい子持ちにはすぐわかるらしい。
なお、同時刻、コルジの家の執事ことローゼル・ローゼンブラッドは突然謎の幸福感に包まれ、思わずちょっと空を飛んでいた。メイド長に足を掴まれてすぐに降ろされたが。
「賄いを作ったから、食べてー! 休憩にしましょう?」
「わ! ありがとうございます、いただきます! 先輩、アニーさんの料理、美味しいんすよ!」
「それは楽しみだ! いただきます!」
「ふふ、いつも自分たちで食べてる感じの賄いだから、食材も切れ端だけどね。どうぞー」
そう言ってお出しされたのは、先ほどの下拵えで出た皮の部分なども活用した、切れ端野菜と切れ端肉と卵の、具だくさん炒飯だった。ニンニクと醤油、ごま油が効いている。ちょっぴり甘めにしてるのは、コルジへの思いやりだろう。多分このコ甘いほうが好きだわー、という見事な直感だ。すっきりと口直しに最適な、塩味の白菜スープもついている。
「! おいしい!! おいしいですアニーさん!」
「うんめ……! アニーさん、これ、レギュラーメニューで出してほしいす! 炒飯もスープもどっちも!」
「うふふ、ありがとー。いっぱい食べてね!」
みんなのおかあさんは、若いコたちがおなかいっぱい幸せそうに食べる姿が大好きなのだ!
今夜は野菜と肉の煮物と、この白菜スープにキノコと春雨を加えたものを出そうかな。あとは焼き魚と卵に……と、スープの中に白米を加え、溶き卵をひと煮立ちさせたおじやを作ってふたりに出してやりながら、今夜の献立を考えるアニーであった。




