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「あ、コルジくんだ! お久しぶり!」
寮の玄関から小さな中庭に続く道に、五課五班のサコン・ササハラが立っていた。彼の両腕……ともう一対の両腕は、シーツを大量に抱えている。
「あ! サコン! お久しぶり、コルジエルだ! 相変わらずかっこいいな!!」
「あはは、どうもどうも」
外見の蟲性の強いカブトムシの蟲人であるサコンは、同期のコルジに大人気である。かっこいい!
ちなみに新人研修期間中、サコンはとてもよくコルジの面倒を見ていた。というか、面倒を任されていた。かっこいい! と懐かれていたので。
「ササハラ先輩はシーツの洗濯ですか? お仕事大丈夫でした?」
「うん、僕はこれから外回りに行くんだけど、寮の前を通っていく場所だからさ、ついでに干すのだけでもと思って」
「なるほど。他の人たちはいます?」
「今日はみんな出勤だね……アニーさんも、君が来てくれて助かると思うよ。コルジくんもお手伝いに来てくれたの?」
「ああ! 任せてくれ!」
「う、うん、ありがとう。アニーさんとサンリのいうことをちゃんと聞くんだよ?」
「うむ!」
「お返事は本当にいつも満点だなぁ。じゃあ、僕はこれ干してそのまま行ってくるから。ふたりとも、よろしくね!」
満面の笑顔で手を振ってサコンを見送り、コルジは気合を入れなおした。お手伝い、がんばるのだ!
「じゃあ先輩、マジちゃんとしてください。翼でものを落とさないように……縛ったほうがいいのかこれ」
「翼を動かせないと、むずむずして困る!」
「反動がヤバそうだしやめとくか……」
「寮の中に入るのは初めてだ! どきどきするな!」
「奇遇っすね、俺もっすよ」
興奮とやる気を胸に、コルジは寮の玄関に足を踏み入れた。
「お邪魔します! 一課十二班のコルジエルです! お手伝いします!」
「ただいま。アニーさーん、サンリです! お手伝いの許可をもらってきましたー!」
はーい、と少し遠くから女性の声が聞こえてきた。続いて、軽い足音。
「あっ! あなたが噂のコルジくんねー? よろしくねー? サンリくんも、本当にありがとう!」
エプロンをした女性が駆けてきた。アニー・アラガミだ。美人だが、悪戯好きそうな口元と、好奇心いっぱいの丸く大きな目がかわいらしさを感じさせる女性だ。猫の耳としっぽもチャーミングである。長命種的な意味ではなく、ヒュームと共通する意味で、実年齢よりも若く見える。
「アニーさん、コルジ先輩はいろいろアレなんで、とりあえず全体を散歩させときます。なんか先輩が足を踏み入れるだけでいろいろきれいになるんですよ。空気とか、匂いとか、幽霊とか」
「あ、それはすごく助かる! できれば地下のボイラー室も入ってほしいかなー? 出るから」
「出るんですね! わかりました!」
「出るんすね、マジで……」
寮の七不思議の一つが事実と知って、サンリは若干遠い目をした。ある程度視える彼だが、ボイラー室には立ち入ったことがない。ちなみにアニーやサンリなどの、ネコ科獣人の血が入っている者は視えやすい傾向がある。アニーは実は結構よく視える。
「あ、立ち入り禁止の部屋とかありますか!?」
「鍵の開いてるお部屋には全部入って大丈夫よー」
「わかりました!」
「俺は大浴場とかトイレの掃除をしときましょうか」
「本当に助かる! ありがとー! 私は台所の洗い物とお洗濯してるから、なにかあったら呼んでねー!」
笑顔で手を振って、また軽い足音でアニーは走っていった。元気なみんなのおかあさんである。
「さて、と。では先輩、よろしく」
「うむ! ちなみにサンリの部屋はどこだ?」
「……鍵締めときゃよかった」
とりあえず、知らない建物に来て探検したがっているコルジをその辺に放して、サンリは水回りの掃除に向かうのであった。




