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(4)

 翌朝。朝風呂と宿の美味しい朝ごはんをたっぷり楽しんで、コルジたちとトネリコ・ウメコ夫妻は中庭に集っていた。のんびりおしゃべりである。


「そういえばガイ先輩以外、俺達は明日帰る予定なんですけど、おふたりはどうされます?」


 昨日コルジが買ってきた温泉まんじゅうを食べながら、サンリはトネリコに問う。


『ああ、儂らはまた今夜辺りから、南に行こうと思うておる。まだまだ知り合いがおるでな』

『私の親戚も居るのよ』

「なるほど! ウメコさんの御親戚といえば、東に多いという印象でした」

『そうね、多いのは東よ。でもあちこちに移り住んでるひとたちも居るわねぇ』

『なんとなく放浪したくなるものも多いんじゃあ。永いこと景色が変わらんのも飽きるからのぅ』

「なるほど! そういえば俺の曾おじばあさまと曾おじばあさまも移住してますね」

「……どっちも両性型?」

「どちらも無性型だぞ。両性型と無性型の呼び方の区別はないな、そういえば。なにか考えるか!」


 エンジェリアのなにかよくわからないところは置いておいて、まったりまだやわらかい日差しを浴びている六人であったが、ふと、空が暗くなった。みるみるうちに暗雲が立ち込める。遠くに雷鳴も聞こえてきた。


「あれっ、雨が降るかな? 部屋に入ろうか。トネリコさんとウメコさんは……」

『儂らは構わんよ』

『私は寧ろ歓迎ですね』

「あ、大丈夫だと思います! お迎えにいってきます!」


 急にコルジが飛び立った。


「え!? 先輩!?」

「ミズバショウさんだと思う!」


 飛び立ったわずか数秒後、


『おぉ、おぉ。やはりお主は愛いのう、コルジエルや』


 嬉しそうな「声」と共に、暗雲の中から白い巨竜がその優美で長大な姿を現した。





「ようこそいらっしゃいました」

「よ、ようこそー!!」


 もう慣れてしまったサトゥと、ちょっとテンパっていたがなんとか持ち直したサラも飛び出してきて、その白い竜……ミズバショウを出迎えた。


『丁寧な出迎え、痛み入る。だが妾はそれに相応しうない。そなたらに謝らねばならぬ身よ』


 雨雲と雷雲にちょっと遠くへ行ってもらって、ミズバショウはゆったりと近づいてきた。遠くから見れば、光り輝く美しい白い竜が、暗雲を割って現れたように見える。多分麓の温泉街は大騒ぎだ。


『妾はミズバショウと申す。先日、妾の縁戚のものが傷ついた際、此処な湯を勝手に使ってしもうたと聞く。その対価を支払いに来たが、生憎、そなたらの通貨を持ち合わせておらぬ』


 ああー、とサンリとガイは頷く。都市の竜たちはお菓子を買うときに、当初物々交換していた。かなり貴重なものを目分量でばらまかれたら経済の混乱などが起こって困るので、六課を中心に両替窓口を作った。そこで竜が持ってきた各地の珍しい物品や鉱物、あるいはちょっとしたお手伝い(主に調査協力という名の六課との飲み会)の対価として、一般で流通している通貨を払っている。


『そこでじゃ。そちらでは珍しい石が珍重されると聞いてな。いくつか持ってきた。これにて支払いをさせてはもらえぬじゃろうか。大層勝手で申し訳ない。無礼に当たらねばよいのじゃが』


 ミズバショウは品よく口を開いた。そこからなにか取り出す。「あ、やっぱ口から出すんだ」となんだか感慨深くなるサンリである。

 取り出した何かを、手で渡すくらいに接近するには場所が狭いので、顔の横まで飛んで来てくれていたコルジに渡す。コルジは両手いっぱいにそれを抱えて、サトゥの下へ降り立った。


「はい! サトゥさん!」

「え……!? い、いえ、これは多すぎます、頂けません!」


 流石に慌てるのも仕方がない。それぞれが人の拳よりも大きい、瑠璃、玻璃、瑪瑙、珊瑚……そういったものが抱えるほどの量である。


『そうかえ? じゃが妾たちの不始末に対する詫びの気持ちじゃ。遠慮なく受け取ってたも』

「いや、恐れ多いです……」

「あ! じゃあ、これから温泉に入りに来る分の、前払いでどうでしょう!」


 コルジが素晴らしい笑顔で提案する。「何言ってんだこのアホ」と一瞬口から出そうになったサンリだが、よく考えるとそう悪くもないか……? という気持ちになってくるから不思議である。それは周りの皆もそうだった。


『成程。どうじゃろう、御主人。そういうことで、受け取ってもらえぬか?』

「え、ええと……では、それでも多いので……ミズバショウ様だけでなく、竜種の皆様全員の、今後のご入浴代金とさせて頂きます。お支払い、承りました」

『うむ、感謝する』


 ミズバショウが優美に頭を下げると、サトミ夫妻も慌てて深々と頭を下げた。やっぱりミズバショウの威容は畏れ多いのだ。


「あ! じゃあ早速ミズバショウさんもお風呂入りませんか!? すごく気持ちいいんですよ!」


 サトゥに宝石を渡して、コルジは元気よく手を挙げて発言した。


『ぬぅ……そうしたいのは山々じゃが、妾はちと巨体故な……』

「お風呂の間は小さくしましょう! リヴァイアサンさんにしたみたいに!」

『おお、成程の。頼めるかえ?』

「はい!」


 コルジが早速「小さくなぁれ」をお願いして、ミズバショウはウメコとそう変わらない大きさまで小さくなった。サンリは普通に「リヴァイアサンさんのときもこんなだったな~」と見ていたが、他の面々はさすがにびっくりである。

 特に、サトミ夫妻。


「え、え……!? あの、コーネリウス様は、その……!?」

「え、え、どういうこと!?」


 昨晩、光の環を見ていなかったか、そんな余裕はなかったのだろう。彼らはまだコルジを単に鳥人だと思っていた。 


「あ……おじさんたちには言ってませんでしたね……」


 サンリはため息を吐いた。


「あんなのでも一応、アレなんですよ、エンジェリア」

「エ……えぇーーー!?!?!?」


 サラの困惑の悲鳴が鄙びた温泉宿に響いたのであった。


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― 新着の感想 ―
>「何言ってんだこのアホ」 やはりサンリの冷静なツッコミが大好きだ……。(周囲の大人がコルジに好意的なのももちろん好きですが)さすが後輩、読者の代わりにどんどん突っ込んでくれ。
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