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「ふぅ……いやぁ、食べたね! ちょっと食休みしたら、お風呂に行ってみよう」
「あ、調査ですね?」
「うん。純粋に入りたい気持ちと半々だけど。コルジ、ライティングよろしくね」
「わかりました!」
暫くまったりお喋り(サンリがガイにモテるコツを詳しく聞きたがったのは秘密にしておく)して、いざ、調査という名の入浴へ。
だがその前に。服を脱がず、撮影機器などがないかの調査だ。幸い今日は女性客がいないので、女湯も手分けして探す。夜目が利く双子が組み、光の環で辺りを照らせるコルジと、ガイが組む。ちなみに「鳥人は夜目が利かない」という説もあるが、ニワトリの鳥人ならともかく、少なくともここに越冬に来るような、渡り鳥系の鳥人には当てはまらない。彼らは夜も飛ぶのである。
それはともかく、なんだかサンリの挙動がおかしかったしサギリもちょっと抵抗があるようだったので、女湯はコルジたちが調べることにした。若い。
「じゃあ照らしますねー」
「うん、おねがーい。……おー、明るい! 便利だねぇ!」
「はい! 机の下にお菓子を落としたときにも便利です!」
「あー、わかる、翼に引っ掛けて色々落としちゃうんだよねー」
「ですよね!」
有翼種あるあるはともかく、画角などを意識して設置しそうな場所を探ったが、機器はなかった。暴れたマニアたちというのも、男性という噂だったし、少なくとも女湯にはないのかもしれない。ひと安心である。
「じゃあ向こうと合流して、夜のお風呂を……」
「あ!」
急に、コルジがなにかに気付いた。
「お、どうした? 何か見つけた?」
「はい! 先輩、誰か来ます! 多分、知ってる人です!」
コルジが空に飛び立つ。先導するようにゆっくりと旋回すると、ガイの目にもなにか見えた。隣の男湯からも驚きの声が上がった。……宿のほうからも声が聞こえた。多分、大騒ぎになる。
『おぉ~! やはりコルジじゃ! 気配はなんとなく感じとったんじゃが、光の環が見えたでの、間違いないと思って飛んできたわい!』
『こんばんは。奇遇ねぇ』
トネリコとウメコさん夫婦である。星空を背に、非常に美しく威厳ある姿だ。
「こんばんは! コルジエルです! おふたりもこちらに来てたんですね!」
「あれぇ、こんばんはー。ご旅行ですか」
『うむ!』
話していると、隣からばたばたとサンリとサギリがやってきて、次いでサトゥとサラがものすごい勢いで駆け込んできた。
「えー!? おふたりともどうしたんすか!」
「お久しぶりです!」
「え、ええと……いらっしゃいませ……?」
「あなた!? そ、そうね!? いらっしゃいませ!?」
サトゥは流石のおもてなし精神である。
『おお、おお、サンリたちも。おっと、宿のご主人じゃろかぁ? 突然すまんのう、儂はトネリコ、こちらは妻のウメコじゃあ。ちと寄らせてもろた』
『初めまして。お宿……は無理そうですけれど、温泉だけでも入らせていただけませんか? お代はちゃんとお支払いしますので……』
少なくとも夫婦の巨体が入り切る部屋はない。大広間があるにはあるが、入り口が狭い。
「ええ、どうぞごゆっくり」
サトゥはもう普通に対応している。竜種だろうがなんだろうがお客様なら問題ない。あと気付いてはいないが既にエンジェリアもいる。問題ない。
「トネリコさんとウメコさんは、この温泉街をご存知だったんですか?」
『おお、それが聞いておくれコルジ。途中、ミズバショウに挨拶したんじゃがな、あやつからここの温泉が非常によいと聞いてな』
「ミズバショウさん! 相変わらず物知りですね!」
『うむ。あやつの兄弟の曾孫の曾孫の……んー、子孫! 子孫が最近、まあ八十年くらい前かの? 産まれたそうでな。それがやんちゃで、つい先日、この近くの山の木で怪我をしてしまったんじゃと。まだ鱗がやわらかいでの。でもここの温泉にこっそり入らせてもろうたら、みるみる傷が塞がって、数日ですっかり元通りになったらしいんじゃ。儂らもちと入ってみとうなっての』
トネリコは、そのよく輝く竜の瞳を嬉しそうに細めた。
「……ねえ、それって……」
ガイがゆっくり振り向くと、サン兄弟は頷いた。これだ。あれはこれだ。
「ああー……サラおばさん、サトゥおじさん。最近の困った噂っていうのは……ね? 多分、ね?」
「そうね……」
「うん、そうだね……」
謎の光と唸り声の噂は本当だった。ちょっと不幸な話ではある。
『ちとその小僧は、整備された温泉が人の営みのものだということがまだ分かっておらんでな、代金の概念が分かっておらんかったようだ。ご主人たちにはご迷惑をかけたと、ミズバショウが言っておった。近々詫びにくるらしいぞえ』
「え」
「え」
「え」
「え! ミズバショウさんもこられるんですか!」
ガイとサン兄弟が危険を感じたが、コルジは嬉しそうだ。旅先でたくさん知り合いに会えるのである!
まあそれはそれとして、折角なので四人と竜種ふたりは温泉を満喫することにした。特別に女湯のほうは、夫婦水入らずでお湯入りとさせてもらった。巨体なので実質垣根の意味はないが。ウメコさんも常に全裸なので気にしていないが。
彼らの入浴中、まだ呆然気味のサラさんの横で、サトゥは竜種夫妻のために軽い夜食を準備していた。おもてなしの雪灯荘である。
また、夫妻は温泉後お暇するつもりであったが、コルジの引き留めとサトミ夫婦の「是非どうぞ」で泊まることになった。屋外で寝ることに全く問題ないため、中庭を借りる。コルジたちの部屋からもよく見える。
「ただでさえ立派な中庭だったけど……こうなるともう圧巻だね」
サギリの言葉に皆頷く。なんというか、ある意味絶景である。どこの宿でも見られない光景だ。
ガイもコルジたちの部屋に泊まって、お泊りで興奮気味のコルジを上手に寝かし付けて、平和に夜は過ぎていったのであった。




