(2)
「え、そうなの? 俺といっしょじゃーん! あ、じゃあさ、あのカフェの新作は……」
鳥人たちで賑わう温泉街。そこでガイは絶好調である。この温泉街で有名な飲食店を探している体で若い女の子二人組に話しかけ、すぐに仲良くなってあれこれ聞いている。横でコルジは温泉まんじゅうを与えられてにこにこしている。『人畜無害な感じで……そのまんまでいいか~。じゃあこれ食べておきなよ。おいしいから』とガイに言われたのだが、ちゃんと聞き込み調査を見学している。えらいのだ。
「あ、この辺の宿なんだ? 俺、あっちのほうの宿を取ってるんだけど、なんか人居ないんだよね。良い雰囲気なんだけどなー」
「あっちって、あの山の中腹のとこ? もしかして、雪灯荘!?」
「そう、そこ。え、有名?」
「そこに泊まってるの!? なんか、怖い噂あるよ……」
女の子のひとりがちょっと声を潜めると、もうひとりのコも神妙な、でもちょっと好奇心を隠せない顔で頷く。ガイは表情は緩いまま気を引き締める。
「え、そうなの!? どんなどんな?」
「あそこの宿、なんか……出るんだって」
「え。……もしかして……幽霊とか!?」
「きゃー!」
噂好きを装って話を振っていくと、女の子たちは楽しそうに笑う。
「実際に泊まった人がね、お風呂で謎の光を見たり、妙な唸り声とか聞いたって!」
「そういう体験談が結構流れてるの! で、それで逆に心霊マニアの人たちが泊まりに行ったみたいなんだけど、お風呂で暴れたとか、勝手に記録機器? みたいなのを仕掛けたんじゃないかとか……おばけより盗撮のほうが怖いから、女の子は行かないんじゃないかな」
「あと暴れたマニアのひとたちが、宿の人にボコボコにされたって話もあったよ。そっちも怖いよね」
「へぇ、なるほど! でも俺、さっきお風呂入ったけど、変なコトはなかったな~。宿の人も優しかったし。もし盗撮されてたら、俺の羽繕いルーティンがひたすら記録されちゃったかも? 翼の生え際をさ、こう……」
「きゃー!!」
有翼種の興奮するポイントはともかく、もうしばらく楽しくおしゃべりして、二人組とは別れた。ちゃっかり連絡先は交換しておいたガイである。コルジは温泉まんじゅうが気に入って、追加で自分で買って食べていた。ガイとサン兄弟の分も買ってあるので安心である。
その後も数組に話を聞いたが、大体似たような内容が集まった。決めていた時間になり、ガイとコルジは双子と合流した。彼らは実家へのお土産をきちんと確保したようだ。
コルジがサンリ、ガイがサギリを運んで(ちなみに前者はぬいぐるみ抱っこスタイル、後者はお姫様抱っこである)宿へと戻ると、捜査会議が始まった。
「……と、こういう情報が集まったわけだ」
「ガイ先輩、すごかった!」
「ありがとねー。で、この情報のうち、まず少なくとも霊の類はいないことで決定かな」
「そうですね!」
「そっすね」
「そうですよねぇ」
コルジが来て実際に風呂場にも行っている。霊がいたらコルジが気付くし、気付かないくらいの存在なら浄化されている。
「まあ、光とか唸り声は、山の中だから獣とかいてもおかしくないしなぁ」
「鳥人のお客さんが多いと思うので、獣人の瞳や声を勘違いした線もあると思います!」
「あー! コルジ賢い! いいこ! よしよし!」
「えへへ!」
「あー、なるほど。温泉気持ちいいとグルグル唸っちゃうもんな……」
「うん……僕ら、さっき唸ってたね……」
「そして女将さんが虎の獣人。有り得るね」
「……マニアをボコボコにしたのも、有り得るかも」
「ああ……」
サギリが目をそらし、サンリは遠い目をした。彼らの母はとある格闘技の王者。そして母はその祖母……同じく王者であったその人から手ほどきを受けていた。サラもいっしょに。……サラも、滅茶苦茶強いのである。
「念のため、撮影機器の有無を確かめようか。まあ、一般で使われてる機器なら、性能も画質もよくないし、耐水性すらないけど」
「……ガイ先輩。機器があってもなくても、噂を払拭するにはどうすればいいでしょうか」
コルジが珍しく難しい顔をしている。
「ん……やっぱそこが一番大事なんだけどね……俺たちが細々と言って回るにしても限界がある。ゆっくり、回復するしかないのかな……」
ちょっと暗い雰囲気になったところで、食事の時間が迫ってきた。ガイもコルジたちの部屋でいっしょに食べることにしたので、移動はしない。
時間ぴったりに、サラとその夫である宿の主人、サトゥが料理を運んできた。
「お邪魔しまーす! さぁ、うちの宿の自慢の料理ですよ! たくさん食べてね!」
「ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。当雪灯荘の主、サトゥ・サトミと申します。ガードナー様、コーネリウス様、ようこそいらっしゃいました。サンリくん、サギリくん、お久しぶり。おかわりもあるからね」
サトゥは物腰が柔らかな、鴨の鳥人だ。料理は彼が作っている。ちなみに得意料理は鴨料理である。「構造がよくわかるから料理もしやすい」という合理性故だが、ちょっと怖い。本人は至って穏やかなのだが。
「お世話になります! コルジエルです! いただきます!」
名物鴨鍋である。非常に出汁が効いていて肉と野菜の味が引き立っている。コルジ以外の三人は酒も嗜んでいるが、酒にも合う味である。
美味しい料理と酒を前に、四人は暗い気持ちを忘れて楽しむことにした。おなかいっぱい、念願の〆のうどんと雑炊までいただいて、コルジはご満悦である。




