(2)
その日も仕事はあまりなく、平和に業務外の来客やお昼寝で時間が過ぎていった。今日は一課の連中が集団でやってきて、癒された顔をして帰っていったり、シキが新作おやつの芋とリンゴの蒸しパンを持ってきてくれたりもした。コルジは、今日もたくさんひととおしゃべりできて、おやつなどももらって、ホクホクである。
「そうだ先輩、サギリがくるときの話っすけど」
シキにもらった蒸しパンを食べながら、珍しくまったりしているサンリがコルジに話しかけた。
「うちの母方の親戚が宿をやってて。俺もちっちゃいころに行ったきりでよく覚えてないんすけどね。そこに顔出しがてら行ったらどうか~、って母に言われてるんすよね」
「ほお! それもいいな!」
「鍋料理が美味いらしいす」
「鍋! 最後にうどんが食べたい! 雑炊も!」
「先輩んちで鍋とか食べることあるんすか?」
「ああ! ローゼルが獲ってきてくれた猪の鍋とか、おいしいんだ!」
ローゼルが聞いたら感動で号泣しながら膝から崩れ落ちそうである。
それはそうとして、彼らの冬の遊びの計画も決まっていった。
「それで、その親戚のかたのお宿は、どういうところにあるんだ?」
「ああ、鳥人のひとたちには結構有名らしいんすけど……」
サンリは母に教えてもらった情報を思い返す。
「温泉街、ですね」
☆
ガイ・ガードナーはそれから結局、一週間の休みを取得した。八課も制圧作戦が減る時期なので、いい具合に交代で休みを取っている。八課一班の班長・ノースも、つい先日家族旅行に出かけていた。お土産の骨やらご当地クッキーやらがガイのとこまで回ってきた。
さて、とガイはお気に入りのゴーグル付きパイロット帽を装着した。防風性能の高いズボンと、鳥人用の防寒ジャケットを着込んでいる。翼に干渉しないボディバッグに荷物を詰め込んで、家の鳥人用出入り口から出て施錠をすると、張り切って南へと飛び立った。今回は思い付きで取った急な休みで、予定の合う女の子もいないし、一人旅だ。
(帰りはお土産増えるよな~。キャサリンとアンジーとココとヒトミと……)
翼の角度で滑空するように飛んでいる間、マメな彼はお土産を持っていく相手を数える。途中で両手の指はとっくに折り終わったが、まだまだ増える。
(ジョセフィーヌとナナとコルジと……コルジはなんか民芸品みたいな謎な玩具とか喜ぶかな。いや、キラキラしたものも喜ぶか)
彼もコルジに甘い大人なので、当然お土産を買うつもりである。
(まあ、おいおい考えるか。それにしても楽しみだな。久々の……)
彼は目的地を思い浮かべる。この時期、鳥人に大人気なのに、奇跡的に予約をとれた、
(温泉宿!)
見事な飛行テクニックを駆使しながら、彼はどんどん目的地に近づいていくのであった。
☆
『ウメコさんや、ちょっと休むかね?』
『私は大丈夫ですよ、あなた』
竜種の老新婚夫婦は、寄り添って空を泳ぐ。雲の上、高い高い空は気持ちが良い。
この機会にあちこちの知り合いを訪ねていたら、コルジに出立の挨拶を告げた日から数日が経っていた。
『そうかぁ。ではもう少し、がんばるかのぅ』
『そうですねぇ。うふふ、楽しみですね』
『うむ! ミズバショウによいことを聞いたのぅ。本当にいいものじゃて、あの……』
トネリコは鋭い牙の生えた大きな口を、がばりと開いて笑う。
『温泉というやつは!』




