第十五話 冬の温泉旅館にて ☆前の段~斯くして彼らはそこに集った~(1)
12月ですね。忙しいですね。師匠も走るなら弟子なんかもうトライアスロンですわ。ええ。
冬。
冬眠(まではいかなくとも、なんとなくぼんやり)する職員も多いので、公安は出勤する職員が少なくなる時期である。
だが犯罪者たちも似たような比率で冬眠期に入るので、実は職員の忙しさはあまり変わらない。むしろ冬眠期に入らない職員が多い部署は、少しのんびりできたりもする。
我らが一課十二班も、通常時からのんびりしているのに更にのんびりできる時期であった。
「おはよう! コルジエルだ!」
「っす」
「おはよう、コルジくん」
いつもの朝だ。クラウデンもやってきて、「クラウデンと呼んでね!」の後、のんびり最低限の仕事を始める。
「そうだ、コルジ先輩。サギリの学校も冬休みなんで、また遊びに来るんすよ。先輩にも会いたいって言ってたから、何処か行きましょう」
「おお! じゃあ遊びに行こう! 俺の家に泊まるか?」
大学も冬休みが長い。サギリもゆっくりできる時期なので、すっかり仲良しのコルジはたっぷり遊べることを期待している。冬に美味しいものや冬に美しい景色を、ともだちと堪能したいのである。
「こんちはー。コルジ、いるー?」
と、そこに来客があった。八課二班のガイ・ガードナーだ。
「こんにちは! コルジエル、います!」
「うん、元気でよろしい~」
頭をぽふぽふと撫でて、ガイはもう片方の手に持った紙袋を差し出した。なにかいっぱい入っている。
「そんな元気なコには、これあげるよ」
「わあ! ありがとうございます! 開けていいですか!?」
「どうぞどうぞ」
中には、なんだか美味しそうなお菓子や飲み物がたくさん入っていた。
「すごい! きれいなお菓子! かわいい!」
「ねー? 冬眠休暇の女の子たちにたくさんもらったんだけどさ、食べきれないなって思って。お裾分け」
「ありがとうございます!」
「どういたしまして。……ところでさ、冬眠休暇ってちょっといいよね。俺も一週間くらい休みもらおうかな~……南に行きたくなるんだよね、冬は、なんか無性に」
「なるほど! 越冬ですね!」
実は鳥人の一部は、冬眠はしないが無性に越冬というか、南に旅立ちたくなる習性があるものもいるのだ。 コルジの家の使用人たちは皆、高く飛べる鳥人であるので、そういった傾向が強い。そういうわけでコルジは、鳥人の越冬習性に馴染み深い。使用人の彼らは交代で休みをとって旅に出ている。約一名、絶対に館を離れないものもいるが。約一名というか、執事が。
「そうそう、のんびりできるとこに行きたくなるねー」
「ああ、鳥人に人気のリゾート地もありますね!」
ちょっとコルジとお喋りして癒やされたガイは、自分の部署に戻っていった。エンジェリア健康法である。
しばらくすると、またコルジ宛に来客があった。
と言っても、窓の外からだが。
『コルジや~。おるかのぅ?』
「あ、トネリコさん! コルジエルです! います!」
『おぉ元気じゃのぅ~』
竜のトネリコだ。隣にはウメコさんも寄り添っている。
「どうされたんですか?」
『うむ、ちと寒ぅなってきたでな。ちょっとの間、南のほうに行こうと思っての』
「ああ! 竜さんたちも越冬ですか!」
『ほっほ! そうとも言えるのぅ!』
「えと、暖かくなったら、また戻ってきてくれますか?」
コルジはちょっと不安そうに尋ねる。竜種の時間間隔は恐ろしくゆっくりしている。彼らの「ちょっと」は下手をすると数百年単位になる。コルジも似たようなものなので平気だが、その他の種族はそうはいかない。トネリコたちとサンリたち、異なる種族の彼らと同時に遊べないかもしれないのは、ちょっとイヤだった。
『うんうん。儂らもすっかりここが居心地が良くてのぅ。春には戻るわい』
『ええ。お土産もたぁんと持って帰りますからね』
「はい! 楽しみにしてます!」
心から安心して、素敵な笑顔でコルジは彼ら夫婦を見送った。




