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一回かなり下まで滑り降りたコルジが、サギリとソリを抱えて上まで飛んで戻り、それからは平和に雪だるまを心ゆくまで作ることにした。サギリは一安心である。
「これはサンリに似せて作った! こっちはサギリくん!」
「わぁ、上手ですね。ちゃんとわかります」
「ありがとう! こっちは班長で、こっちはデルタ先輩で……」
それぞれの特徴を何故かそれと分かる程度に備えた、でも全体的には不格好な雪だるまが増えていく。
渾身のゲイツ雪だるまが出来上がったころ、心ゆくまで滑りを満喫したデルタと、いい笑顔のクラウデン、そしてすっかりスノボにハマってまだ物足りないサンリが戻ってきた。結構な時間が経っていたのだ。
「お、すごい雪だるまじゃないか! がんばったねコルジくん」
「はい! がんばりました!」
「うふふ、これは私だねぇ? かわいく作ってくれてありがとう~」
「はい! 角が上手にできました!」
「先輩って意外とみんなのこと見てるんすねぇ……サギリ、お守りお疲れ。寒くなかったか?」
「うん。でも戻ったら、温かいココアでも飲もうよ」
「ココア! マシュマロ浮かべたい!」
とりあえず今日はここまでにして、皆は館に戻った。何故かさっき出てきたときよりも雰囲気が清浄な気がする。
その夜はクラウデンご自慢の料理を食べたり、ゆっくり雪見風呂で身体の疲れを癒したりと、平和に過ぎていく。
殺人事件も起こらないし、呪いも発動しないし、幽霊も出ないのである。
☆
翌日、朝食後にみんなで元気にゲレンデに赴く。三連休の内、最終日は各々ゆっくり休む予定にしており、今日の夕方には帰るつもりなので、早めに遊んでおくのだ。
本日も始まった双子の本能に従った謎の疾走を横目に、今日はデルタはスノボだ。これもまた素晴らしく巧みで華麗である。本能から復帰したサンリといっしょに凄まじい勢いで滑り降りていく。ご一緒できてサンリもうっきうきだ。ふたりで華麗なテクニックを披露しながら疾走する様子は、なかなか見応えのある光景である。
クラウデンは「わー」とか「あー」とか言いながら今日は昨日よりかなり上達した滑りを見せている。楽しそうで本当に何よりだ。
さて、サギリとコルジは。
「……ここまで雪だるまが並ぶと、壮観ですね……」
「そうだろう! がんばった!」
サギリも協力して、雪だるま祭りが開催されていた。知り合いすべてを表現しようかという勢いだ。竜種の雪だるまはもう雪像と言ったほうがいい。不格好なのは相変わらずだが、なんとなく愛嬌がある作品群である。
「ふむ、雪だるまは少し休憩するか。ソリに乗ろう!」
「あ、いや、僕はここで休んでおきます……」
「わかった! いってきます!」
コルジは元気よくソリ遊びに行った。気をつけるようにとは言っておいたが、多分大丈夫だろう。
(それにしても……)
サギリは雪だるま群を見渡す。……明るいからいいが、夕方とか夜に見たらちょっと怖いかもしれない。
(昨日作ったものも全然溶けてないし、もしかして、エンジェリアのアレでこれずっと残るとか、ないよね……?)
サギリはちょっとそんなことを考えたが、コルジは作るときに「溶けずにずっと残っててほしい!」と願いながら作っているので、当然ずっと残るのである。
昼過ぎになり、館に戻る頃。デルタと楽しく遊べて、朝からでれでれしっぱなしのサンリがコルジとサギリを拾いに来た。
「えへへ。ふたりともー! そろそろ戻……うわなんだこれ」
雪だるま王国である。
「なんか……地方の観光名所っていうか、ちょっと変わった芸術家きどりの一般市民が趣味でやってたら噂になっちゃった感じっていうか……すごいな?」
「すごいだろう! がんばった!」
「いやまあ、うん、すごいっすわ……」
「すごいよねぇ……」
双子はふたりしてちょっと遠い目をしちゃうのである。これがずっと残ると知ったらもっと遠い目になっちゃうだろう。
「ん、んん! それはそうとして、戻りますよ。昼飯食べて、帰りの準備を……」
「……むぅ」
コルジがぐずった。おもむろにサンリの背中、肩甲骨の間辺りに頭をくっつけてぐりぐりしている。
「おいこらなにしてんすか! ったくもう」
「まだ遊びたい!」
「わがまま言うんじゃありません!」
「むぅ……」
そんな駄々っ子エンジェリアの肩を、サギリは優しく叩く。
「またいつか来ましょう? ね? 次の楽しみにしましょう?」
「む……」
「まだ冬は長いですし、来年もありますよ。今度はいっしょにスキーもやってみませんか?」
「うむ……うむ! そうだな! そうしよう!」
「じゃあ戻って、マシュマロ浮かべたココアを飲みましょう」
「うむ!」
駄々っ子回収成功である。柴犬の頑固さがたまに出る兄の扱いでちょっと慣れているのだ。
そうして、本当になんら事件もなく、無事に楽しい雪山バカンスは終わったのであった。
☆
帰りに、また麓の店に寄る。お土産や気に入った名産品を買って帰るためだ。
「……あんたたち、無事だったようだね」
店の老婆が、ちょっと安心したように声をかけてきた。
「はい! きれいにしておきました!」
「本当かい……? でも確かに、なんだか山のほうが明るく見えるね……」
「はい! あ、雪だるまもいっぱい作ったので、もしよければ見てくださいね!」
「お? おぉ……?」
彼らを見送った後、老婆は明るくなった山と「雪だるま」が気になって、恐る恐る上に登ってみることにした。
そこで目にしたのは。
「なんじゃこりゃあ!?」
雪だるま王国である。
老婆は明るくなった山と雪だるま王国のことを、家族や友人たちに話した。それはたちまち麓で話題となって、見物客が増え、ついでにゲレンデの素晴らしさに気づいた者たちがスノースポーツを楽しむようになり、ついに山と館の所有者のダライアウツに「館を宿として利用していいか」という問い合わせが行われた。ダライアウツとしても助かるため、使用許可ついでに管理を頼まれた麓の人々の手によって、ちょっとしたリゾート地へと発展するのであった。
なお、いつまでも溶けない雪だるまが、一種の怪異として有名になるのだが、それはまた先の季節の話である。
(END)




