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(2)

「え、コルジさん!? どうしてここに!?」

「うむ! 今日は昼過ぎから街に行くだろう? 迎えにきた!」


 確かに、今日は午後から街に行く予定だった。午後から休みを取っているサンリと、そしてこのコルジ。三人で遊んで一泊する予定である。そのため今日はちょっといつもより荷物が重かったのだ。


「コルジさん、お休みは午後からじゃないんですか?」

「うむ! その予定だったのだが、この大学に公安からのお知らせを届けるお手伝いをさせてもらえたんだ! そのままサギリくんを連れてきていいって、班長にお許しを得た!」


 あの班長さんか、とサギリは納得した。大学構内に、公安への就職を目指す学生たち向けの求人パンフレットのようなものが置いてある。確か人事課の仕事だと思うが、ああいった類を持ってくる仕事を、お手伝いとして与えたのだろう。彼らは本当にコルジに甘いのだ。愛されているコルジは嬉しそうに辺りを見回す。


「学校って、なんだかすごいな! 俺は学校というものに行ったことが無かったから、一度見てみたかったんだ!」

「そうなんですね……」


 制度上、国民には義務教育があるのだが、エンジェリアは環境上、必要なことは家庭で教育するのが普通なのかもしれない。それでよく公安試験に受かったものだと、ちょっと感心する。


「サンくん、こちらのかたは? 公安職員さんかな?」


 あえて一歩引いて見守っていた教授が、ちょっと前に出てきた。観察していたのだろう。


「こんにちは! 公安のコルジエルです! サギリの友人です!」


 制服姿のコルジが元気よく挨拶する。教授も自己紹介するが、コルジの見た目や言動からどうにもなにか勘づいているようだ。が、あえて何も言わない。


「ではサンくん、論文の話は今度にしよう。構内を案内してあげたらどうかな?」

「は、はい! では失礼します」

「失礼します!」


 教授の視線を感じながら、サギリはコルジに手を差し伸べる。


「じゃあ、案内しますね。湖が綺麗に見られる場所があるんですよ」

「うむ! 楽しみだ!」


 コルジは当然のように手を取る。知り合った当初は、年上の、自分より結構背の高い男性に見える、コルジの手を引いて歩くことは不思議な感じがしたのだが、サンリがごく自然に手を引いてあちこち移動しているのを見て学んだ。手を繋いでおかないと、どこに飛び出していくかわからないのだ。それに、こちらが手を伸ばすと吸い込まれるように自然に握ってきてにこにこする。間違いない。幼児だ。 


 コルジが喜ぶので、サギリは広い構内をひたすら案内して、ふたりでお散歩した。大変美しい鳥人男性の手を引いて構内を練り歩くサギリはちょっと有名になってしまうのだが、それはまた別の話だ。

 お散歩が終わった後、コルジにお姫様抱っこされて街へ飛んでいくサギリは、もっと有名になってしまうのだが、それもまた別の話だ。





「ずるい! 俺もサギリを迎えに行きたかったのに!」


 公安本部に着くと、珍しくコルジ相手に駄々をこねるサンリが出迎えてくれた。


「うむ! 俺も行きたかったから行ったぞ! 今度はふたりで行こう!」

「絶対ですよ」

「ええと、僕、普通にひとりで来られるよ……?」


 サギリは自分に甘いお兄ちゃんにちょっと不安を覚えたが、昔からこうだったから諦めた。三人で仲良く公安本部を出て、コルジおすすめのカフェに行く。


「シキさんがデルタ先輩に教わったカフェなんだ! ケーキがおいしかったんだ!」

「あー、なんか先輩たち、よく情報交換してますもんね……羨ましい……!」

「あ、ここ、友達に聞いたことがある! 来てみたかったんですよ」

「それならよかった!」


 美味しいケーキと楽しいおしゃべりで、なんだかかわいらしいひとときを過ごす。サンリはあまり甘いものが好きではないが、ほろ苦いティラミスが舌に合った。というか、かわいい弟が嬉しそうにしているのでそれだけでよいのだ。あとはアホの先輩の口周りを拭いてやったり服を汚さないように気を付けてやるだけだ。


「サンリ、さっきサギリくんに学校を案内してもらったぞ! 学校というものに初めて行った!」

「あー、先輩は義務教育は家庭で?」

「うむ! 家族みんなと使用人のみんなが教えてくれたんだ!」

「公安試験は、どうされたんですか? お兄ちゃんは専門学校に行ってましたけど」

「参考書を買ってきてもらった!」

「それで受かるのがムカつくよな……ハイスペック神聖種め」

「お兄ちゃん、口が悪いよ」

「ハイスペックか! ありがとう!」

「コルジさん、多分今のあんまり褒めてない……」

「まあ、でも参考書だけで受かるってことは、すげぇ深く読み込んでがんばったってことっすよね、先輩も」

「うむ! 受験勉強していた時期は、お昼寝もあんまりしなかった!」

「チッ」

「お兄ちゃん、ガラが悪いよ」


 その後はサギリの希望で図書館へ。大学の図書館もいいが、街の図書館は置いてある本のジャンルが多種多様で助かるのだ。普通に小説なども読みたい。サンリは仕事に役立ちそうな専門書を何冊か抱えている。兄弟そろって真面目なのだ。その横で、コルジは大きな図鑑を大きな机に広げて静かに楽しそうにしている。翼が控えめにばさばさしている。図書館では静かにしているのがとてもえらい(甘い)。

 そういえば、とサギリは多種民俗学のコーナーへ行く。あの教授の著書もあった。一般向けの「多種民俗学入門」を手に取る。イラストが多く、とっつき易い。今度いっしょに論文を書くことになりそうなので、これくらいは読んでおこう。ぱらぱらと捲った感じ、竜種に並々ならぬ憧れを持っているのが垣間見られた。もし彼らの鱗を持っていったらどうなることか……数枚持っているので一枚くらいは譲ってもいいが、少し怖い気もする。日常で彼らの姿を見られるようになったとはいえ、世間一般では鱗は大変貴重なものなのだ。彼らが稀に落とす鱗を、殆ど全部コルジにあげているというのもその理由の一端ではあるのだが(『だってコルジが喜ぶんだもの』、とは彼らの言である)。


 それぞれたくさん本を借りて、その日は街のホテルに宿泊である。ビュッフェスタイルの夕食が豪華で美味しそうだったので、サンリの希望だ。

 双子で大きなこどもの面倒をみつつ、期待以上の食事を楽しんで、平和に夜は過ぎていった。


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