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幕間 サギリくんのまともな日常(1)

なんとこれで100エピソード目でした!びっくり!

「いってきます」


 我らが愛すべき弟、サギリ・サンは、母に挨拶して家を出た。今日は一限から講義がある。

 いつもより少し重い荷物を斜め掛けのバッグに詰めて、駅までは徒歩十五分。お散歩は好きなので少し物足りないが、大学まで徒歩となると少し差支えがある。乗車時間はたったの五分。だが、その殆どの時間は湖である。彼の通う大学は、湖の真ん中にあるのだ。

 歴史ある学校で、設立当時はまだ国全体の治安が悪く、学生たちが安心して勉学に励めるように、とのことでこの立地になったらしい。陸路は、湖上の鉄橋を走る専用の列車のみ。その列車も乗り降りの際に学生証等の呈示が必要なので、確かに、よからぬ意図を持った人間の侵入は、一定程度防げるだろう。それで防げないのは鳥人や蟲人の飛行可能種や、海洋系の獣人たちだが、それらに対してもある程度対策されている。


 さて、今日の一限の講義は大講義室で行われる。なんとなくいつも座っている席に着くと、周りに同期の仲の良い友人たちがやってきた。


「サギリくん、おはよー! ねえ、もうレポート提出した?」

「うん。結構がんばったよ」

「ホントに!? 資料ほとんどなくない?」

「あはは。ちょっと、伝手があって」

「そうなんだ?」

「いいなー!」


 サギリに友人は多いが、昔からどちらかといえば女性の割合が高い。サギリの善良さや、やわらかい雰囲気に加え、いわゆる肉食系ではないためだろう。犬と虎のハーフ獣人だが。

 互いの文房具のかわいさなどを褒めあっていると、教授がやってきた。真面目な学生であるサギリたちは、静かに聴講を始める。


 今受けているのは、「多種民俗学」。色々な種族別の民俗を浅く広く学ぶ。サギリのように、教師を目指す学生に人気である。いつか夢が叶って受け持つであろう生徒たちは、多種多様なのだ。習慣の違いなどで問題が起きないように、最低限でも事前に学んでおくことは役に立つだろう。サギリも卒業に必要な単位はほぼ取り終わっているが、将来のために受講している。


「えー、事前に課しておいたレポート。現時点で提出者が本当に少ないです。さすがにハードルが高かったですかね」


 まだ三十代後半ほどの、ヒュームの教授が苦笑いすると、学生たちからも笑い声が上がった。


「やっぱり『神聖種について』というテーマは難しいですね。ですが」


 教授は視線をサギリに向けた。


「サギリ・サンくん。君は実に素晴らしいレポートを提出してくれました。実は君のレポートを多種民俗学者の学術会議で紹介したところ、すごい騒ぎになってしまいました。今度、僕も手伝いますから、論文にしてもらいたいんですよね。この講義のあと、僕の研究室に来てもらっていいですか?」

「は、はい」


 周りからも視線が集まり、サギリは恥ずかしさのあまり赤面して俯いてしまう。評価されて嬉しくはあるが、注目されるのは慣れないのだ。


「では、折角なので今日はサンくんのレポートに書かれていた、神聖種エンジェリアについて紹介と考察をしていきましょう」


 サギリは俯きながらも、レポートを書く際にお世話になったエンジェリアの顔を思い浮かべる。


「えー、参考書に指定しています『種族大全』の、神聖種、エンジェリアの記載があるページを開いてください」


 学生たちは一斉に角で人を殺せそうな大全を取り出し、該当の項目を引く。ほんの数行しか記載がない。そもそも神聖種自体のページが少ない。


「御覧の通り、僕らにわかっていることは大変少ないですね」


 大全の記載では、稀少、保護種、有翼、頭上に光の環を持つ、超常的な能力がある、美しい、くらいしかわからない。

 だがサギリは他にもたくさん知っていることがあるのだ。

 兄の同僚というか友人にして、自分にとっても友人である彼のおかげで。


「最近、街のほうで目撃例がありますが、鳥人との見間違いではないかと言われています。ですが、実際に街で活動しているエンジェリアが存在します。そうですね? サンくん」


 学生たちがざわめくが、サギリはしっかり頷く。


「公安本部の巨大樹に集まるようになった竜種、彼らも神聖種ですが、みなさんの中にも彼らを見に行った人も多いでしょう。僕も行きました。壮観でしたね。実はその付近に、よくエンジェリアも出現するんです。個人情報の面もありますから、詳しくは言及を避けますが、僕も知人に確認しました。間違いありません」


 なお、この教授の知人は、公安第六課第一班の班長をしている。マニアの世界は狭く深い。


「では、エンジェリアの特徴の中でも異色の、超常的な能力について……」


 ずっと友人の素敵な笑顔が脳裏に浮かんだ状態のまま、サギリは時々己の書いたレポートに言及されて、ドキドキしながら聴講するのだった。





「サギリくん、すごいじゃん!」

「あ、あはは、ありがとう……」

「ねぇねぇ、どんなこと書いたの!?」

「さっき言ってた伝手って、どういう業界の人なの!?」


 講義が終わると、友人たちが詰め寄ってきた。隠すことでもないが、広めることでもない。保護種という以前に、友人のプライバシーである。


「え、えと、教授に呼ばれてるから、僕、行くね?」


 とりあえず逃げ出すことにする。教授は教壇で質問を受けていたが、丁度そちらも終わったようだ。小走りで駆け寄るサギリに片手を上げて迎えてくれる。


「じゃあ、研究室についてきてもらおうかな。悪いね。他の講義は今日ある?」

「いえ、ありませんので、平気です」


 ふたりで広いキャンパスを歩く。途中、サギリは折角なので、蟲人について知りたかったことを質問したり、また、教授からレポートについての質問を受けたりもした。本当に真面目な学生である。


 研究棟の前に辿り着いたそのとき。


「あ! サギリくん、見つけた! こんにちは! コルジエルだ!」


 聞くはずのない声が聞こえてきたのであった。


あの……100まで数えたので贅沢言っていいですか……?

できれば……下の☆を……★にしてもらえないでしょうか……

そうすると……作者はめちゃくちゃ喜びます……えへへ……

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