この世界について
この本を手に取ったあなたへ。
まず最初に伝えておきたいことがある。
私たちが記録しているのは、君たちの世界では考えられないような事件の数々だ。
信じられないだろう? だが事実だ。
──これは、君たちとは異なる世界の話。
私たちが生きているこの世界には、およそ百五十の国が存在している。
地理も歴史も文化も、君たちの知る世界とはまったく違う。
だが、似ているところもある。
人がいて、社会があり、争いと欲望と、時々、ほんの少しの奇跡がある。
そして何より、この世界にも“事件”がある。
凄惨な殺人。理解を超えた現象。誰も辿り着けない真相。
そうした“異常事態”が起こったとき、ある機関がその処理にあたる。
それが──**グローバル・インシデント・アライアンス(通称GIA)**だ。
GIAは、各国の合意によって設立された超国家的な機関であり、あらゆる国をまたいで活動する特権と独立性を持つ。
組織の構造は極めて複雑だが、その中でも特に重要なのが、「事件記録部門」と呼ばれる部署である。
我々が所属しているのも、その一つだ。
君たちの世界でいう“警察”のようなものだろうか。
いや、むしろそれよりも広範で、曖昧で、時に不可解な存在かもしれない。
なぜなら我々が扱うのは、単なる法と秩序の問題ではないからだ。
人間の想像力が及ぶすべての“異常”が、この世界では実際に起こりうる。
呪いも、毒も、幻影も、そして嘘も。
それらを前にして、我々は科学と記録を武器に、立ち向かう。
GIAには、世界中に支部がある。
各国、各都市に点在する支部は、それぞれ独立して事件にあたっているが、
重大な事案や解決困難なケースは、最終的にGIA本部に報告される。
この本に記されているのは、そうして集められた“本部受理事件”の記録だ。
特に異質で、記録に残す価値があると判断されたものだけが、ここに残されている。
そしてもうひとつ──
この本には、実際に事件にあたった捜査官たちの名前が記されている。
彼らは国家ではなく、GIAに忠誠を誓う者たちだ。
それぞれの支部で、違うやり方で、違う価値観を持ちながらも、ひとつの目的のために動いている。
「記録すること」。
それが、我々に課せられた唯一の義務であり、最後の矜持だ。
どうか、信じてくれとは言わない。
ただ、ページをめくってみてほしい。
そこに記された記録が、君の知っている“現実”を、少しだけ揺らすかもしれない。