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CASE 008: 蒼穹の密室

記録者:


GIAノルディア支部


シグリッド・ハンセン




基本情報


事件名: 蒼穹の密室


発生日時: アイオス暦1506年1月19日 午後2時35分頃


通報者: 清掃員 ザカリー・モーヴ


事件場所: ノルディア王国・中央行政塔94階 展望応接室


事件状況: 解決


被害者:


名前: クロード・アーサリオ


年齢: 49歳


職業: 科学技術庁顧問


住所: ノルディア王国・蒼峰区グラント通り81-2


死亡時刻: 午後2時15分ごろ(推定)


死因: 窒息死(特殊気体による呼吸阻害)




事件概要


ノルディア王国の中心にそびえる行政塔の高層階で、科学技術庁の顧問であったクロード・アーサリオが死亡しているのが発見された。


応接室は完全な防音・防風構造であり、セキュリティカードがなければ出入りできず、事件当時の出入り記録は“被害者本人のみ”。


現場に凶器は見つからず、争った形跡もなし。ドアも窓も内側からロックされており、密室殺人としてGIAが介入した。




現場到着と検証


14:52 通報を受け、行政塔警備隊およびGIA捜査官が現場に到着。


14:57 被害者は椅子に座ったまま死亡。顔面にチアノーゼ、口腔から泡沫。


15:05 応接室の空気成分を分析したところ、一時的に酸素濃度が極端に低下していた痕跡を確認。


15:18 エアコン吸気口から“空気置換ガス”と思われる痕跡。使用されたのは人工生成型の軽圧縮気体「アクレイドC」。


15:35 被害者が使用していた専用デバイスに、事件時刻に合わせた「換気装置遠隔操作ログ」を発見。




現場検証の結果


・被害者が吸気口を通じてガスを取り込んだ直後に死亡した可能性が高い。


・応接室に設置された緊急酸素供給ボタンは、直前に破損していた。意図的な細工。


・部屋の内部ログに、外部アクセスが一件記録されており、差出元は“財務庁副局長室”の端末。


・GIAの捜査により、事件前日にこの端末を使っていたのは、庁内技術官のエレナ・フリステであると判明。




犯人の特定と供述


犯人はエレナ・フリステ(35歳)、財務庁技術部に所属。


かつてアーサリオ顧問とともに行政塔の環境管理システム開発に携わっていたが、成果のすべてを奪われ、名義も消された。


その後、彼女は庁内で干され、別部署へ左遷。


今回、応接室の換気機構の弱点を熟知していた彼女は、アクレイドCを用いた“気体密室”による殺害を計画。


事件当日、タイマー付きプログラムを端末から送信し、換気装置の排気圧を高めて酸素濃度を急速に低下させた。




犯人の供述


彼は言ったんです。


「これが世に出れば、君の名前も載るかもしれないな」って。


でも、それは何年も前の話で、結局、名前はどこにも残らなかった。


私の手元にあったのは、彼の署名が入った評価報告書だけ。




応接室は美しかった。空がよく見える。鳥の声も届かない。


そこで彼は、いつも得意気に未来を語ってた。




だから私は、未来を止めたかった。


彼が作ったこの“密室”で、彼自身の呼吸を止めることで。




誰にも気づかれず、彼の世界から酸素を抜いたんです。


私の名前がなかったように、彼の息も、ただ静かに消えただけ。




裁判結果


アイオス暦1506年9月7日、ノルディア王国最高法廷にて以下の主文が下された。




主文


被告人エレナ・フリステを、計画的殺人の罪により有罪とし、死刑に処す。動機の同情余地はあるが、公共空間における殺人かつ技術悪用の危険性を重く見る。




所感


酸素という目に見えないものを奪う犯行は、まるで“存在の価値”そのものを消すかのようだった。


蒼穹の密室に満ちていたのは、技術への信頼か、それとも静かな復讐の意志か。


ガラス越しの青空が、誰のものでもなかったように、彼女の怒りもまた誰にも触れられなかった。




アイオス暦1506年9月14日 GIA本部にて事件記録受理。

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