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夜を明かすために  作者: 深鈴東
第一章
14/22

13. 鷹の子

いつもご愛読ありがとうございます!今回のエピソードまでで、毎日投稿は一旦終了とさせていただきます。次話は本日から3日以内に投稿できるよう努力致しますので、しばらくお待ちください。

「そういえば、『R.W.M.U.』って……?」

 時刻は18時を過ぎた頃。僕たちはダイニングテーブルを囲んで夜ご飯を食べていた。広いテーブルに可愛らしい色のテーブルクロスが敷かれている。コハルの趣味だというが、そこに刺繍を施したのは意外にもカスミだと言う。今食べているハンバーグもカスミが作ったものだ。彼にこんな特技があったとは思わなかった。

「俺たちの組織名の略称だ」

 僕の問いかけにホムラが答えてくれた。ホムラは胸ポケットからメモ帳を取り出し、スラスラと文字を書いていく。

「燦然世代は教団名を英語表記で名乗るケースもある。それが『Radiance World』。これを踏まえて作られたのが『R.W.M.U.』という略称名だ。燦然世代残党謀殺部隊、これを簡単に英語訳すると『cult ″Radiance World″ murder units』これらの単語の頭文字を取って、R.W.M.U.になる」

「わあ…なるほど。『燦然世代』と『Radiance World』は同じ意味ってことだよね…?」

「そうなるな。それとR.W.M.U.は当然の事ながら八咫烏関係者にしか通じない。秘密組織扱いであるから、あまり人前で口にしない方がいいだろう。公で仕事をする際、俺たちは『対最優先事項部』という肩書きを使用する。気をつけてくれ」

「う、覚えることがいっぱいあるな…。ホムラ、その紙貰ってもいい…?」

「かまわない」

 僕はホムラに「ありがとう」と言った。すると、カスミから視線を送られていることに気がつく。

「…んなもん覚えなくたって任務はできるって。ちょっと真面目すぎねえか?シグレ」

「キミはもう少し少年の勤勉さを見習うべきだね」

 トバリさんにツッコミを入れられたカスミは「…うるせー」と言い、スープを一気に飲み干した。コハルは朗らかに笑っている。こんなに暖かな食卓は両親が生きていた時ぶりだ。僕は満たされていくとともに、胸の奥にツンとしたものを覚えた。



 夕食を終えて満腹になったことで、僕は眠気に襲われていた。ソファに座りながらうとうとしていると、風呂上がりのカスミが隣に座ってきた。

「な、シグレ。気になってたんだがよ、お前の親父さん社長だって言ってたよな?もしやな気持ちにならねえんだったら、どんな会社を牛耳ってたのか教えてくんね?」

 カスミはいかにもわくわくしてそうな顔で尋ねてきた。こういう俗っぽいところは彼の特徴の一つなのかもしれない。

「牛耳るって……そんな支配してたとかじゃないと思うけど、僕の父さんは製薬会社の社長だったよ。『鷹崎グループ』っていう」

 そこまで言うとカスミは床に尻もちをつかんとする勢いで、盛大にずっこけた。

「!?」

「シグレお前っ…!!まさかあの『鷹崎家』の人間か!?!?」

 カスミの大声に他のみんなまで集まってきた。

「『鷹崎家』だって?」

「こんなこともあるんだな」

「シグレ、お金持ちってこと…?」

「お前、いいとこの坊ちゃんだったのかよ!!」

「え、え、あ…あぁ………」

 4人から詰め寄られて、僕はキャパオーバーになりかけてしまった。




「改めて、僕は鷹崎時雨(たかさきしぐれ)です…」

 僕の苗字が「鷹崎」だと判明したあと、4人から質問攻めにされた。確かに鷹崎家は祖父が家長だった時代に鷹崎グループを創設し、そこから一代で鷹崎グループをセレスチャルを支える大企業に成長させたとして名前が知られているけれど、あくまでそれは経営者として働く人たちの間だけで有名なだけだと思っていた。まさかみんなのように若い人たちも鷹崎家のことを知っているなんて思わなかったのだ。

「まさか鷹崎家の若君にこんな場所で出会うとは」

 ひときわ興味深そうにしているのはホムラだった。

「わ、若君…?よく分からないけど、僕は僕の家系がそんなに有名なんて知らなかったよ…。じいちゃんが凄い人っていうのは父さんから聞かされていたけど、じいちゃんに会ったのは一回だけだし、記憶がないくらいちっちゃい時だったから…」

祖父は僕が幼かった頃に病で亡くなった。かろうじて覚えているのは、祖父の葬式に出席した時のことだ。あまりに広い会場と、知らない大人たちに縮こまってしまい、僕はずっと母の後ろで怯えていた。今思えば、祖父は大勢の人に惜しまれるほどの実力者だったのだろう。

「なー、シグレは社長の長男なんだろ?鷹崎グループ継ぐとかそういう感じになんのか?」

 カスミはまたわくわく顔になってそう尋ねてきた。

「いや…ないと思うな。そんなこと考えたこともなかったから」

 カスミは「なーんだ」といった顔になった。

「それに、もう鷹崎グループの社長は父さんじゃないし…」

 僕がそう言うとカスミは「やらかした!!」といった顔になる。ちょっと面白かった。

「悪い!!」

「いや、いいよ…大丈夫」

 ちょっと無遠慮なところがあるけれど、すぐに謝ることが出来るのは彼の良いところだと思った。

「む…じゃあ今の鷹崎グループの社長は誰なんだい?」

「叔父です。叔父はテロ被害区域から離れたところに住んでいたから…」

 僕がそう答えるとトバリさんは険しい顔になった。

「そうか…ますますキミを市民の目に晒せなくなってしまったな」

「…?なんでだよ」

 トバリさんの懸念に、カスミが首を傾げる。

「少年をここで保護することになった理由の一つは、彼を市民の好奇の目から守るためだろう?…少年の叔父が彼を探しているのか不明だけれど、ほとぼりが冷めるまでは少年を人目に晒すことは避けるべきだ。おそらく、この件に興味を持った市民は少年の身元まであっという間に特定してしまうだろうからね」

 トバリさんが苦言を呈すると、コハルが困ったように付け加えた。

「シグレが鷹崎家の人って知られちゃったら、インターネットがもっと大騒ぎになっちゃうかも……」

 トバリさんが「そういうこと」と言わんばかりに頷いた。

(父さんは自分が鷹崎家であることを誇示しない人だった。それどころか僕に会社を継いでほしいといった素振りも見せなかった。だから、今まで僕は自分に鷹崎の血が流れていることを気にすることなく生きてこれたのかも…)

 父は権力に固執するような人間ではなかった。過度な贅沢を許さず、質素な生活を好むような人だ。僕は父がどのような企業の代表者であったのか、もっと興味を持つべきだったのかもしれない。

「ただ、少年が名家の生まれであることがデメリットのみを生み出すわけではない。明日、少年とボクとホムラで九命猫の本部に行くけれど、少年が鷹崎家だと判明したことを彼らに伝えれば、少年をぞんざいに扱う確率は低くなる。なにせ()()鷹崎家だ。八咫烏の人間は下手すると少年を手放さないように手配するかもね」

 トバリさんは一人で満足そうに頷き、ホムラの方を見た。

「どうだい?ボクの()はよく当たるだろう?」

 ホムラは何度が瞬きをした後、徐ろに拍手を送った。

「恐れ入った」

 僕は何の話か分からなかったけれど、どうやら悪い話ではなさそうだったため、ホムラとともにトバリさんに拍手をした。トバリさんは「雛鳥みたいだ」と言って笑っていた。



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