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0. もしも運命を変えることができるなら
目に前に広がる凄惨な光景を、私たちは受け入れることができなかった。
愛する人が目の前で死んだ。すぐにでも遺体を搔き抱いて、泣き叫びたかった。
でも立ち止まれなかった。
次々に降りかかる脅威と耐え難い痛みから逃れるため、ただ走った。
積み重なる遺体を踏みつけ、横たわる瀕死の者が伸ばした手を振り払い、親を殺され一人で絶叫している自分より幼い子供を突き飛ばしてでも走り続けた。
今、この瞬間、世界で最も残酷な仕打ちを受けているのは自分だ、と信じて疑わなかった。
あの時、ここに生きる人がみなそう思い、等しく神に祈った。
決して届くことのない天へ縋ろうとし、空を抱きしめた。
あの時の間違いがもたらした後悔に、私は苛まれ続けている。
もしも運命を変えることができるなら。
あの惨劇を、すべての苦しみの始まりを、なかったことにしてしまいたい。