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 翌日。

「あっ! 桜~! こっちこっち!」

 池袋駅前で、親友でモデルの沙羅と落ち合う。

 沙羅とは高校時代からの親友だ。

 沙羅は大学生のときにスカウトされて芸能界入りし、今はモデルと女優両方の仕事をしている売れっ子芸能人。

 今日は、肩を大胆に出した黒のロングワンピースとサングラスをかけている。スタイル抜群の沙羅には黒が良く似合う。

 本人は変装のつもりなのだろうけれど、オーラは全然隠しきれていない。

 すれ違った人たちが、沙羅をちらりと見てひそひそとなにか話しながら通り過ぎていく。

(さすが沙羅だ……)

 私も沙羅みたいに綺麗だったら、真宙くんにももっと好きになってもらえてたのかな。……なんて卑屈な考えが浮かんでしまう。

(ダメだ……今日はなにを考えてもマイナスなほうへいってしまう……)

 それは、付き合っていたのに彼に愛された記憶はほとんどないからか。

 会いたいという言葉も、好きという言葉も、全部私発信だった。

 足が重くなる。

 ――と、そのとき。

「桜~!!」

 沙羅の高い声が、耳朶(じだ)を叩いた。その声は、いとも簡単に私の心の重い雲をふっと取り払っていく。

「あ、沙羅。久しぶ……」

 沙羅は私を見るなり、テンション高く抱きついてきた。

「わわっ!」

「久しぶり!! 元気にしてた?」

「うん、元気だよ」

 無理に作り笑いを浮かべて答える。

 今日は私の話をしにきたわけじゃない。せっかく好きな人ができたっていう明るい話で会ったのに、私のせいで暗い気持ちにはさせたくない。

「半年ぶりかぁ。でも、沙羅のことは最近よくテレビで見るからあんまり久しぶりな感じはしないけどね」

 すると、沙羅ははにかむように笑う。

「えへへ。桜はいつも私が出てるドラマ見ると連絡くれるよね! 実はそれ、すっごく楽しみにしてるんだよ! 出演情報とか言ってないのに、ちゃんと見てくれてるんだなぁって」

「当たり前だよ。沙羅は私の元気の源だもん」

 沙羅の存在は、私にとって本当に大きい。

「ありがとう。さて、じゃあ行こっか!」

「うん」

 ふたり横並びで歩き出す。

「それで、沙羅の好きな人ってどんな人なの?」

 歩きながら、話を続ける。

「あっ、うん! あのね、七木(ななき)大雅(たいが)って言うんだけど、知ってる?」

「七木大雅? えっと……」

(私に知ってるか尋ねるってことは、同じ高校か大学の人ってことだよね……)

「七木、七木……」

 記憶を辿ってみるけれど、分からない。

「ごめん、分かんないや。高校か大学の同級生?」

 尋ねると、沙羅はからっと笑って手を振った。

「違う違う。彼ね、俳優なの。基本舞台メインで活動してるんだけど、ちょこちょこドラマとか映画に出てるから、もしかしたら知ってるかなって聞いてみただけ」

「沙羅の好きな人って、俳優なの!?」

「ちょっ! 声が大きいってば!」

 沙羅が慌てて私の口を塞ぐ。

「あ、ごめん……」

 それにしても驚いた。

(あの沙羅の好きな人が芸能人だなんて……!)

 沙羅にとっては、俳優やモデルさんが一番身近な異性になるから、当たり前と言えばそうなのかもしれないけど。

(芸能界で生きている人たちって、恋愛まで華やかなんだなぁ……)

 沙羅を遠くに感じて、ほんの少し寂しい気持ちになる。

 あの頃からなにも変われていないのは、私だけなのだろうか。

 惨めさに、ついぼんやりとしてしまう。

「桜? どうした?」

 名前を呼ばれて顔を上げると、沙羅が首を傾げて私を見つめていた。

「あ、ううん。なんでもないよ」

 慌てて笑みをつくろう。

「そ? じゃあ行こ?」

「うん」


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