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放たれた猫

「ちょうちょー!」


楽しげにきゃっきゃと笑いながらタマは蝶々を追いかける、タマの見た目もあってかその光景は城下町でよく見かける無邪気な子供のそれ以外の何者でもない光景だ…追いかけている場所に目を瞑ればだが


「おーいタマ〜!降りてこーい!そんなとこまで俺面倒見れねえっての〜!!」

「んあー?たっであー!」

「お前もおーいじゃねえよ!降りてこいって!」


タッディアに向かって呑気に手を振りかえすタマが今いる場所、それは屋根裏のスペースも合わせて地上5階層と地下が2階層ある王宮騎士団本部の地上6階…つまりはアンドリュー達がいる本邸の屋根の上まで逃げた蝶々を追いかけていた

バナンが正式にタマの世話係を辞退してからはタマから良く懐かれているタッディアとシャリーが交代で面倒を見つつ、手の空いたタイミングで息抜きにアンドリュー達がタマを可愛がりに来るという形が出来上がっている


「おぉ〜最近は屋根の上がお気に入りだな」

「呑気にしてる暇あるんですか殿下?そろそろ来ますよ」

「大丈夫わかっているさ、だからこっちから呼ぶ方がやりやすい…おぉーい!」

「あんろるー!」


アンドリューに声をかけられたタマは嬉しそうに屋根からバッと跳んだのだ

手を広げるアンドリューに迷いなく飛び込んだタマ、いくら小柄で軽いとはいえ5階建ての建物の屋根から飛び降りた子供を難なくキャッチしてみせるあたりアンドリューも大概フィジカルモンスターといえる

キャッチされたタマは腕の中でもぞもぞモニョモニョと動いてすぐにアンドリューの背中へとへばりつく


「はははっ!さては最近は屋根と背中がお気に入りだな?」

「おにきりー!」

「いつか大怪我しますよ殿下ぁ」

「ちょっと首の筋でも痛めて一日タマを構ってやる日を設けるのも良いかもしれないな」

「第一王子殿下の首の筋暗殺の罪でタマが捕縛されなきゃですがね」

「被害者の王子本人が許すんだ、当然首の筋も許すさ」

「そりゃ違ぇねえや」


——タァァァァァァマちゅわぁぁぁぁぁん……!!!


「ヴニャッ!!」


遠くから聞こえる声にタマはピンと耳を立てて周囲を見回すとサッと屋根の上へと逃げ出そうとアンドリューの背を素早く降り…


「あーぁ残念、今日は逃げ遅れたなタマ」


…たところへまるでウサギを狩る猛禽類が如く豪奢なドレスを着た少女が飛び込んできた


「タァァァァマちゅわぁぁぁぐゥゥへへへへへへへェァァッッッ!!!」

「ニャァーーーッ!?」


そのもふもふなおなかを削らんばかりにタマの腹へと高速で頬擦りをしながら奇怪な笑い声をあげるのは王女にして転生者…ヒメカ・エルセルディティア様ご本人だ

実はタッディアはこの光景はタマの世話係が交代制へと変わって2日目の昼にも見ていた。まるで静かな湖畔から吹くそよ風に揺られる小さな花々のようにお淑やかで気品ある空気を纏っていたヒメカに「少々タマたんの様子を見させて頂いてもよろしいでしょうか…」と声をかけられたタッディアは「タマ、たん……??」と疑問に思いながらも品行方正という言葉が似合う彼女の言葉を無碍にはできなかった


「……品行方正、というより欲望爆発か?」

「いやこれは4文字も要らない、変態というんだタッディア」

「あぁ…うん…そりゃ違ぇねえや…。」


まぁ見事に『この始末☆』というやつである。

ひとしきりタマのおなかをモフったヒメカはすっくと立ち上がり涎まみれになった口元を淑やかに拭ってそっとドレスの裾をつまんで挨拶(カーテシー)をした


「ご機嫌ようお兄様、タッディア様、(わたくし)興奮の余り少々はしたない姿をお見せしてしまいましたわ」

「少々かなぁ、それ少々だったかなぁお姫様?」

「うふふ、タッディア様ったら、どうかそんな意地悪を仰らないで?」

「嘘だろあんなバケモンみたいな笑い声上げてたとこからこんなプリンセスプリンセスしたプリンセスやれんのもうこれ多重人格でしょ殿下」

「残念ながら同一人格で同一人物だ」


ヒメカはタマが来てからぶっ壊れたとは実兄であるアンドリューの談である。

実のところは別にタマが来る以前から実兄を含めた王宮騎士団でノーマルから薔薇百合まで多彩な掛け算をリバ可で妄想するとんでもねえ奴ではあったが、実際タマが来るまではまだプリンセスプリンセスしたプリンセスっぽいプリンセスを演じられていたので彼女の化けの皮をぶっ壊したのがタマなのは事実だ


「ところで小耳に挟んだのですがどうやらバナン様とタマ様の仲が少々こじれているのだとか」

「随分と遠い小耳だったな…それで?何を企んでいるんだ」


フラフラと立ち上がりヒメカから盾にするように己の背に隠れたタマの頭を撫でながらアンドリューが問うとヒメカはわざとらしく口元を隠しながら「まぁ!」と心外そうな声をあげる


「そんな企むだなんて…そんな聞こえの悪い事を仰らないでお兄様、私これでもお二人の仲を案じておりますのよ?」

「…そうは言うがアレは当人同士でしか解決が難しい拗れ方だ、放っておくか距離を取り続けるか…いずれにせよ本人達と時間に任せるしかない」


回復したのかタッディアにちょっかいをかけ始めたタマは彼に「行ってこーい」と促されて近くにあった噴水へと遊びに行く、そしてちゃぱちゃぱと水を叩いて遊ぶ姿にまたソワソワし始めたヒメカにぺちっとアンドリューがデコピンをして嗜めた


「価値観の違いや主義思想の違いというのは道が交わらないからこそ起こる衝突だ、それなら相互理解の末に何かしらの決着が付く。だがしかし片方に道が無い場合は相互理解どころかまず衝突自体が拗れてしまう」

「まぁ衝突…ってよりは事故だろうな、道って概念を知らねえやつが馬車の前に飛び出してきて、そいつにどこ見て歩いてんだって怒鳴ってもそいつからすりゃいきなり進行方向に出てきたのは馬車の方だろうさ」

「そんな極端な…」

「その極端が今噴水に顔突っ込んで遊んでるアイツなんだよ…あっ落ちた」


そう言ってタッディアは噴水に顔を突っ込んで遊んでいたら顔から噴水に落下して軽くパニックになっているタマの元へと駆け寄っていく…

アンドリューは『理解』を、タッディアは『隣人』を、クレタスは『矯正』を、シャリーは『慈愛』をとそれぞれ道無きタマとどう関わっていくのかを選び、そのどれもが模索の道でもある

そしてアンドリューはバナンに『友人』あるいは『教育』の道を期待していたが残念ながらそれは失敗してしまった


「あとはバトス次第とも言えるしタマ次第とも言える。むしろバナンまでがとんとん拍子に話が進んでいたせいで俺は功を焦ってしまったのかもしれない…これじゃあ騎士団長としても王子としても失格だな」

「お兄様……」

「殿下は立派にやってるさ、結局ウマが合わねぇってだけなんだ。そんなもん生きてりゃ片手の指じゃ足りねえくらい出会うもんだ」

「そ、そうですわよお兄様!それに私こう思いますの…」


ビチョビチョになったタマをメイドに任せて戻ってきたタッディアの言葉にヒメカも続く、そして途中で言葉を切ったヒメカに二人は彼女の顔を見る…そこには自信満々な表情でタマを見上げる彼女がいた


「こういうのってだいたい何かしらのイベントが起きてなんやかんやどうにかこうにかなって良い感じになるもんですわっ!」


二人が同時に大きくため息を吐いたのは言うまでもない。

そしてそんな三人の耳に少し遠くから「えっ?!ちょっ、た、タマ様ぁ〜〜!?」と声をあげたメイドの声が届いた


「……居なくないか?」

「居ねえなぁ」

「居ません、わね…」


メイドに連れて行かれる途中だったタマが消えた、それも目を離した一瞬の隙に

慌ててこちらへ来たメイドに事情を聞けば濡れたびちょびちょになった服をその場で脱ごうとしだしたので流石に止めたら身体に張り付いて脱げなかったのだそうだ

そこから何故消える?と思ったがどうやら脱げないことに癇癪を起こして服と近くにあった木に糸をつけ、ぐーっと引っ張ったところ当たり前だが木に体重負けして投石器のように射出されていったそうだ


「…そ、それは…!ちょっと面白すぎるだろうよ…!く、くくくっ…!」

「ワタシも流石に嘘かと思いました…でも飛んでったんです、ばびゅーん!って…」

「ふっ、ふふふふっ…!た、たたみかけないでくださいまし…!ふくくっ…!」

「大変面白いがとりあえずタマを追いかけよう…」

「あ、あと服は脱げました。すぽーん!と…そして脱げたものがこちらです」

「ブフゥッ!!」


変に腹筋に悪い状況説明をなんとか聞き終えアンドリューはモーナを探しに屋敷へとヒメカと共に戻る。アンドリューは役職としては騎士団長であるが王族だ、報告も護衛も無しに出歩くのは万が一を考慮して禁じられているためモーナの同行は必要になる、もちろん自衛能力の無いヒメカは屋敷で待機である、なのでタッディアが先行してタマの捜索に出る


「メイドさんの言うことにゃこっち方面に飛んでったらしいが…タマが大人しく落下地点に居るわきゃねえよなぁ…」


タマが街に出る事自体は何度かあったがいつも側に王宮騎士団がついて手綱を握っていた、クレタスとタッディアの教育のおかげで基本的には問題無いのだがたまにぶっとんだ事をするのがタマという蜘蛛猫なのだ…


「(下手すっと事情を知る“蜘蛛猫”としてのタマしか知らねえ街が運営している方の騎士団の厄介になりかねない…!)」


タッディアが一番不安視しているのがそこだ、買い物ややっちゃいけない事を教えればタマは驚くほど素直にそれを吸収して最近じゃ怪我をした団員を心配して救護の真似事までしている

そんなタマがまだ吸収できていないもの…それが知識の応用と道徳的な判断基準の思考だった




『タマ!どうした!?』

『たっであー?』

『お前、怪我してんじゃねえか!』

『あい〜…』


そう言って無邪気に焼け爛れた肉球を見せつけてきた時はあまりの理解不可能さに眩暈がした

タマがやりたかったのは料理のお手伝いだった、そしてタマにはもう火を扱う危険性と魔道具の使用方法とその加減とあまり火を大きくすると火事になって危ないという事をキチンと教えてあったため心配など無いと思っていた…


『誰も見てなかったのか!?』

『い、いえその…見てはいたのですがずっと上機嫌で痛がるそぶりも無く…』


タマは鉄製のフライパンの取手で大火傷した、普通ならば濡れ布巾やミトンで持つ鉄が剥き出しの部分を長時間握りしめていたせいで低音火傷にもなっていた肉球はヒールの魔法に加えて回復薬まで使ってやっと完治した

後で話を聞いたがタマが言うには…


『んと、持つ…?しないと…あぶないって…あついかったけど、おてつだい…やりたかった…』


つまりは「調理器具の扱いには注意してちゃんと持っていよう」と「怪我をしたらお手伝いの途中でも医務室へ連れて行ってもらおう」という知識を「何があってもフライパンから手を離すな」「怪我をしたらお手伝いはおしまい」と変換してしまったのだ

その結果タマは“大火傷して痛いけどバレたらお手伝いが終わってしまうからフライパンから手を離せなかったしSOSも出さなかった”…普通なら分かるだろうという事を理解できないのは最初こそ頭を抱えたが少し考えればそうなった原因は簡単な事だ


『“パパ”たち…ちゃんとおてつだい、最後までする、すきだった…』


腐れ外道(ゲドゥー達)にとっては何もかも都合が良い。

1を知って10を知る賢さがあっても10のうち1だけを理解する愚か者である事を生まれた時から強いられ続ければ残りの9を自然と切り捨てるように育つ…洗脳教育極まりないがそこから抜け出す0手目を知らず、また11手目となる他人も居ない環境ではそこから抜け出しようが無いのだとタッディアは初めてゲドゥー一派に恐怖を抱いた

狡猾で悪辣故に加減を知らぬ悪を“邪悪”と呼ぶならば、マヌケで愚か故に加減を知らぬ悪はなんと呼べばよいのか。そう自問したその時、タッディアが頭に浮かべたのは“最悪”という言葉だった




「おぁぁ〜…」


視点はタッディアの回想からタマへと戻る

空を飛び、見知らぬ民家の屋根の上にひらりと着地したタマは現在地が分からず立ち往生していた


「どこー?」


レンガ造りの建物はそこそこに高いがキャット種の遺伝子を持つタマにとってはちょっと高いところから降りる…程度の感覚ではある、そんなタマが立ち往生しているのは降りていいかどうかの判断が付かないからだった

『迷子になったら騎士団の誰かが来るまでどこにも行かない』…この言いつけをタマは現在地が分からないならその場から動いては行けないと捉えた

幸い屋根の端の方に着地したため行き交う人々や景色のおかげで退屈することはなかった、足をぷらぷら揺らしながら上機嫌でタマが眼下を楽しんでいると不意に声をかけられる


「おーい!そこにいんのは誰だ〜!」

「あい?」


見覚えのない顔、聞き覚えのない声にタマが声の主を見てみると鈍い銀色の無骨な鎧を纏った男が一人、タマを見上げて声を上げていた

男はカシャンと兜の前を開けてタマの顔をよく確認し…そしてギョッとした


「おめえ裸んぼじゃねえか!若い嬢ちゃんがそっだら格好でうろついちゃワリィ男にさらわれちまうぞぉ!ちょっくら騎士舎さ戻って服とって来てやっがら待っとけぇ〜!」

「……きしだん…きしだん?」

「あー?なんだってぇ?」

「おじさん、きしだん?」

「んだよぉ〜、アンタこの鎧さ知らねんかぁ!こりゃ騎士団の鎧だぞぉ、しかもブリキなんかじゃねえぞ、もっとカチカチの鉄の鎧だってんだぁ!」

「きしだん!」

「あっ!?どこ行くんだおめえ〜!!」


返事も待たず服も待たず、タマは糸を飛ばして別の屋根に飛び移って消えてしまう…『迷子になったら騎士団の誰かが来るまでどこにも行かない』、言いつけ通り騎士団である男に話しかけられたのでタマを縛るものがなくなった

普通ならば“騎士団”は応急騎士団かつ知り合いの誰かを指しているのが理解できるが、残念ながらタマにはまだ文脈から意図を読み取るのは難しかったようだ


「んーと…んーと……あっ!」


びゅーんと糸に呼ばれるまま空を駆ける、気の向くまま本能のままにあっちにこっちにと糸を伸ばしてはめちゃくちゃに街を飛んでいき、そして好奇心を惹かれる物を見つけて飛びつく


「おっきい!とけい!」


それは街の全体へ時を知らせる大時計塔…の文字盤がよく見える向いの塔へと降り立った。タマが時計塔の天辺にある鐘に興味を持たなかったのは不幸中の幸いだろう…好奇心で叩いて鳴らしかねない

向いの塔の天辺に座り込みタマはカッチカッチと動いていく秒針を目で追う、そしてそれがぐるりと一周回ると長針がガッコン!と時を刻んで動いた


「おぁー…!!」


それが何だか面白くてタマは秒針をじぃーっと目で追っては長針に合わせて体を傾けてキャッキャと喜ぶ…身長100センチにも満たないその体を全部使って今タマは時計塔に遊んでもらっているのだ

だが時刻は4分の1刻を過ぎ半刻を目指すところ、熱心に長針と向き合い続けて傾いた体はごろんっとバランスを崩して向いの塔から転げ落ちてしまう


「んわぁ〜…」


またひらりと着地したタマが降り立ったのは建物に阻まれて薄暗い裏路地、そこにはまるで捨て猫のようにボロボロな姿でタマを睨むスラムの住人たちがいた

スラムの住人は突如上から降ってきた得体の知れないタマを無遠慮にジロジロと観察する、とにかく得体の知れない奴だが履いているズボンは上等そうな布かつ酷く汚れてもいないあたり確実にここへ来るような者ではない…ただ何故か上裸だ

整った中性的なその外見でその格好はあまりにも不用心に映るうえにわざわざこんな所(スラム)に来る意図が分からなすぎる…だと言うのに無警戒にズンズンと歩いてくるそれは一番近くにいた住人の前にかがみ込んだ


「ここどこー?」

「ど、どこって…スラムってやつだよ…」

「すらむ?」

「オレらみたいな()から放り出されて戻れねえ奴らがいる場所だ…」

「んー…?」


先の分析と獣人の特徴からしてどうせ鼻は良い…だというのに不快そうな顔も見せずこっちの話をただ聞く幼い存在はなおのこと住人たちを困惑させる

だが生き物の死ぬ時に発する臭いに慣れたタマにとっては“スラム”という存在そのものから発される独特な臭いも特別不快感を抱くほどのものでもないし、ここの住人が全員まとめて善人に分類出来るほど醜悪な悪党に飼われていたタマが今更浮浪者に何か思うわけもない


「お?おぉおぉおぉ!マァジかよお前〜!」

「んえ?…あ〜っ!!」


不意にかけられた声…ヘラヘラとした笑みを隠そうともせず、己を悪と理解したうえで反省する気が微塵もない“最悪”

そういう醜悪な輩というのがこぼれ落ちた時に流れ着くのはこういう場所だ


「“パパ”のおともだち!」

「なんだよ“蜘蛛猫”〜!久しぶりじゃねえ…っか!!」

「うぁっ」


突然ドンと乱暴に突き飛ばされてタマは尻餅をついてズボンが泥に汚れる、アンドリュー達から与えられたズボンについた汚れを見たタマは初めて抱くモヤりとシミが広がるような感情に少し戸惑う…

それを自分にあって怯えていると勘違いした男はニヤリと笑ってタマの腕を無理やり引っ張り立ち上がらせた


「噂は聞いてたぜ?ゲドゥーのマヌケのとこから保護されて今は騎士団の世話になってるってなあ!」

「………」

「大事な“パパ”達を裏切って、お前だけ楽しそうに生きてんだなぁお前」


再びのモヤモヤとした感覚、それに困惑して何を言ったら良いのか分からないタマはただ胸に広がる嫌な感覚にガリ…と爪を立てて追い出そうとする


「なぁ“蜘蛛猫”、あんな良い子ちゃんぶった気色の悪い奴らは俺らにはウマが合わねえよ」


言葉が出ない…胸の中にあるのはどんどんと広がるモヤつきと、久しぶりに出会えた“パパ”との繋がりへの安堵だ


「また可愛がってやるからさぁ“蜘蛛猫”……あぁそうだ!アイツらのとこからなんか盗んでこいよ、それを売ってここで2人暮らそうぜ?」


それはタマにとって“おつかい”として仕事をやらされる時の語り口、目の前でヘラヘラと笑う男は間違いなくタマには…いや“それ”にとっては大切な仲間であり“パパ”の友達だった


「てかさ、アイツらムカつくよなぁ…」


頼むからもう何も言わないでほしい

“それ”にはもう何も分からないのだから

今この感情を何と表せば良いのか

今この焦げる胸の内が何なのか

今この落下する様な気分の悪さは何なのか


「あぁそうだ!せっかくだからよぉ」


何を言うのかはすぐに分かった

何故ならそれは最も頼まれた“おつかい”だ


「何人か殺してこいよ」


爪に血が滲んだ

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