借りてきた猫
「んっふふーんふーんっ!」
「ご機嫌だな」
「うんっ!」
「……これがあの“蜘蛛猫”ねぇ…」
そうボヤきながらタマの隣を歩くのは少々野暮ったい顎鬚を生やしたくたびれた印象を与えるオレンジ髪の男タッディア、彼はアンドリューの騎士団に務める三番隊の隊長にして現タマの子守り役だった
何故彼がタマの子守り役になったかといえば時は遡りタマがアンドリューと戦い和解の末に懐いたあの日から3日後のことだった
「タッディア、お前に任務を与える」
「嫌です殿下、その口火の切り方は面倒の匂いがする」
「今回お前に与える任務だが…」
「話聞いてくれよ殿下、おい、無視すんなってあぁあぁあぁ子供出てきたよ子供、あぁ〜〜もうめんどくさっ」
「よろしくいがいがします!」
「しねぇよ、喉風邪じゃねえよ」
あれぇ?と言いたげに首を傾げるタマを前にタッディアは天を仰ぐ、アンドリューに肩車された彼のことはずっと視界に入っていたが「そいつは王子の管轄だろ」と己に言い聞かせて無視していたというのにこれだ
「コイツの面倒をしばらく頼む、一般常識を教えるには俺の生まれは特殊だし二番隊の者では生真面目過ぎてタマが寝た」
王宮騎士団には1から5番までの隊がある
一番隊は実力者が集まる切り札にして王族アンドリュー・エルセルディティアがが直接指揮を取る王者のキング
二番隊は厳格と騎士道を重んじ王宮騎士団の業務全てを請け負っている、元修道女シャリー・サンティス率いる執行者のクイーン
三番隊は王族率いる一番隊や厳格な二番隊では対応しづらい“裏”を柔軟な姿勢と確かな実力で裁く、元平民タッディア・アイグリム率いる遊者のルーク
四番隊は魔法や弓の扱いに長ける遠距離攻撃部隊にして時には王宮騎士団の頭脳として策を巡らせる、詩人クレタスの率いる賢者のビショップ
五番隊は戦闘にてその数と連携によって他4隊を守る守護にして民草を守る国防と警備の要、元孤児院出身バナン率いる勇者のナイト
彼ら王宮騎士団にポーンは無くそこに属する全てが単なる歩兵の枠組みには収まることが出来ない実力者の集団である
「“寝る”じゃなくて“寝た”なのかよ」
「あぁ、それはもう寝かしつけ係として採用したいくらいに」
「絵本の代わりに騎士教本読むでしょあいつら」
「よくわかったな、現在隊長であるシャリーが盛り上がってしまってタマの世界では1巻の15ページ後半だが彼女は4巻の後書きだ」
「時間軸のずれ方が伝説の時空跳躍魔法過ぎるだろ、二番隊は魔法剣士にでもなったのかよ」
「ともかく頼む、まずは騎士団で慣らしてやってくれ」
…と、いうわけである。
そして気分よく前を歩くタマは時折無意味に駆け出しては「たっでぁー!」と楽しげにきゃーきゃー叫びながらタッディアへと突撃していく、それを「あーはいはいなんだー…」と受け止めては「それいってこーい」とまた走らせ戻ってきたタマが気まぐれに彼の周りをうろつくのだ
「…子供のお守りならバナン達のが向いてるだろうに」
「たっでぁー…?」
「はぁ…別に迷惑じゃねえよ、ただ俺は適任じゃないだろってだけ」
「そ、かぁ…」
「あぁそーだぁー」
そして2人は三番隊が日々の生活や鍛錬のためにあてがわれている屋敷へと辿り着く、広い訓練場では今まさに隊員達がそれぞれの武器を模した木製の武器を持ち素振りをしている最中だった
「うぃーみんなオッス〜」
「タッディア隊長〜子連れで朝帰りっすか〜?」
「馬鹿野郎俺は純愛派だから子連れすんなら美人の妻も一緒に来るわ」
「じゃあ永遠に子連れ出勤をイジってやる日は来ねぇなぁ!」
『ダハハハハハハ!!』
「うーし、今から模擬戦やるぞー、俺は普段使ってるやつでお前らは木の枝拾ってこいなー」
「ヒェェ……ちゃんと死ぬぜそりゃ…」
『ダハハハハハハハハ!!!』
ヘラヘラガハハと笑い合い和気藹々な雰囲気の三番隊にタマは少し懐かしさを感じる、とてもお上品とは言えない彼らの言葉遣いは人としての性質こそ天地のように違えどゲドゥー一派の手下達を想起させたからだ
そんな懐かしさにタマが浸っていると集団の中から突然に木製の槍が一本タッディアへと投擲される、それに気づいたタマが素早く跳躍して蜘蛛の糸でそれを絡め取って槍を投げた本人へと投げ返すとその男は驚きながらも難なく槍をキャッチしてみせた
「ゔゔぅーー…ッ!!」
「あー悪い悪い、いきなりだとびっくりするわな、アイツは敵じゃねえし今のも挨拶みてえなもんだよ」
「ゔゔゔゔ……う??」
「そ、挨拶、敵じゃねーの」
「悪いな嬢ちゃん、模擬戦前のお決まりのじゃれあいなんだ!」
「……おはようごます?」
「そっ、おはようございますの代わりだ」
納得したタマが槍を投げた男に「ごめんないー!」と手を振ると男は「あいよー!」と返しながら改めてタッディアにぽーんと槍を投げ渡す、それをキャッチしたタッディアはしばらく槍の握り心地を確かめてから口を開いた
「おいアッセル〜、この槍誰のお下がりだ?お前のやつじゃねえだろ」
「だぁー!やっぱバレちまうかぁ〜!」
「ハハッ騙せるかよ、こりゃ8つ隣にいるビーディの使ってるやつのだ」
「くっそ〜!やっぱそこまでバレんのかよ!」
「だから巻き込むなっつったろ!?隊長騙せたら訓練サボって良しなんて餌に釣られた馬ァ鹿がよぉ〜!!」
「はいはいケンカは走りながらやれ〜?うい駆け足っ!15周っ!」
「「うーっす…」」
罰ゲームで訓練場の周りを走り込みさせられた2人にタマが手を振りながら「がんばえー」と声をかけると2人は手を振りかえして走るペースを上げた
「はいじゃあいつもの組み手やるぞー、全員かかってこい。」
その言葉と共に全員の雰囲気と纏う空気がスゥ…っと静かに変わったのをタマは感じ取りその場を飛び退る、それと同時にタッディアに向かって集団の全員が襲いかかったのだ
タッディアはそれを全部槍で正確に叩き落とし払い除けその場から動くことなく捌いていく、1人また1人と武器を手から叩き落とされ同時に掬い上げるようにしてぽぉーん!と集団の中から投げ飛ばされていく
どさりと目の前に落ちてきた1人の男にタマが駆け寄りつんつんと興味深げにつっつくと彼は「なぁんだよぉ」と呟きながらも上半身を起こしてタマを構ってくれるのだった
「ほれ見ろ、あの人の槍やばいだろ」
「やばい?」
「すんごくすっごいって事」
「すんすご!」
「そう、やばやばのすんすごなんだよあの人、急に伸びてくるし急に加速するし急に止まったかと思ったら視覚に捉えてた位置からズレてんの」
「あわぁ〜…!」
「な、あわぁ〜って感じだよな」
「はいそこー、楽しくおしゃべり出来る余裕あんなら武器拾って戻ってこーい」
「やべ、じゃあ行ってくるわ」
「あいー!がんばえー」
「………ヘヘッ頑張げぽぉっ?!」
デレデレとしながら戻ってきた男は武器を叩き落とされると同時に伸びた鼻の下をぱちこーん!と木槍で叩かれて素っ頓狂な悲鳴をあげて崩れ落ちた
「はい鼻の下伸ばすな〜」
千切っては投げ千切っては投げというのはまさにこういう光景を指すのだろう、たった数分の内に30人以上はいた集団は男女問わずタッディアの周囲に転がされてうめき声が訓練場を包んだ
終わってみればタッディアはほぼその場から動いておらずその圧倒的な強さが分かる。倒されてしまった彼らも決して弱くはない、実力で言えば王宮に仕える近衛兵よりも上の者が多いだろう
「だはぁ〜!やっぱ隊長には勝てねぇ〜!」
「俺らも冒険者やってた頃にはランクBだったってのによぉ!」
「俺なんかAだったぜ?なのにこのザマなせいで俺らが弱えみたいだ!」
「あーお前らは弱えよ、雑魚だ雑魚、雑魚の上澄み」
「ひっでぇ〜!!」
口々に上がる隊員達の愚痴にヘラヘラと笑いながらタッディアは軽口で返す、そしておもむろに視線をタマへと送るとよっこいせと槍を構えた
「ほぉれ“蜘蛛猫”、オメーもこいこい、全員だっつったろ」
その言葉に隊員達がざわついた、それも当たり前だつい先週まで王宮騎士団で追っていた凶悪犯の1人なのだから
だが全員身構えはしない、何故なら信頼するタッディアが特に警戒や拘束もせずまるで子供のように扱って連れてきた上に木槍で相手をするのだ、自分たちの隊長は相手の危険性も嗅ぎ分けられずに下手を打つ馬鹿では決してないという確信がある
「おぉあの嬢ちゃんが前に殿下が言ってた“蜘蛛猫”か…」
「えっでも噂では男じゃなかった…?」
「あの顔で男は無理だろ…」
「いやむしろ付いてた方がおトクよ…」
「ちょっと何言ってるかわかんない」
本当に好き勝手言い放題である。
そんな隊員達にタッディアは「うっせーぞー」と声を投げかけつつ改めて槍をタマへと向けニヤリと不敵に笑う
「んで?どうするよ」
「いいの?」
「俺から誘ってんだ、いいに決まってんだろ?」
「いたいよ?」
その瞬間ドッと隊員達が笑う
「むしろ怪我させてくれー!」
「隊長が怪我すりゃ訓練サボれるじゃねえか!」
「いいぞー!やっちまえ“蜘蛛猫”ー!」
何故笑われているのか分からないタマがキョトンとしていると隊員達はよっこいしょアイテテと体を起こしながらやんややんやとタマを囃し立てる
「怪我させられるもんならやってみな“蜘蛛猫”、一撃入れれば勝ちのルールだ」
いいんだ、あそんでくれるんだ
タマは体を動かして遊ぶのが好きだ、そして彼が知る遊びとは“パパ”たちが教えてくれたおつかいだけだ
つまり“蜘蛛猫”は戦うのが好きなのだ
「………やるーー!!!」
「っしゃあ来い!!」
叫んでまっすぐ飛びかかってきたタマの初撃を難なく槍で弾き落とす…つもりだったがタマは木槍の先端をしゅるりと躱して柄を足場に真上に跳ぶ、上を取ったタマは太陽を背に爪を剥き出しに再び飛びかかった
「なんのっ!」
ほぼ視界ゼロの攻撃をタッディアは槍の横薙ぎで潰す、しかしタマは薙ぎ払われた槍の先端を蜘蛛の糸で捕まえギュルンと勢いをつけて距離を取った
10秒にも満たない高速の攻防に周りは湧き立つ
「やるじゃねえか“蜘蛛猫”、ちょっとだけビビってやるよ」
「にゃはー!たのしいー!たっでぁー!」
満面の笑みで心底楽しげに笑うタマがジグザグとしたステップで接近する、ニヤリとした笑みを崩さないタッディアも油断なく槍を構えていたがその視界から不意にタマが消えた
勘を頼りに後ろへ跳ぶと今の今までタッディアがいた場所を黒い影が通り過ぎた。地面に糸をつけそれとは反対方向にステップしたタマは糸の伸縮性を利用して急加速、視界の外から全身のバネを使って爪の一撃を狙ったのだ
「なるほど魔力で身体強化してんのか!」
「わかんない!わかんないけどたのしいのー!!」
今までタマは満足に食事を与えられずにいて魔力がほぼ枯渇していた、さらに絶えず痛めつけられていたせいで微量に回復した魔力は自己治癒に回されてしまう…だが今は食事をもらい充分な休息をしてただ普通に日々を過ごしていた、そのおかげでタマの中には今魔力が有り余っている、その魔力を使ってタマは本能のみで身体強化魔法を行使した
「すげえ!隊長が回避行動で動かされたの久しぶりに見たぞ!」
「いけいけー!ってうおぉ?!」
「ちょーだい!」
唐突に伸びてきた蜘蛛の糸が座り込んでいた隊員の短木剣をかっさらう、素早く手元に持ってきたそれを逆手に構えてタマはもう一度突撃を仕掛ける
しかしタッディアも達人の域の人間、空を貫く鋭い突きでタマを迎撃…そしてその突きをさっきと同じようにしゅるりと回避しようとしたタマをそのまま地面へと抑えつけた
「にぃっ!」
「っと危ねえ!」
抑えつけられるとほぼ同時に顔面に向けて投げられた短木剣を首を動かし回避したタッディア、だが何故か攻撃を回避してタマを拘束したというのに素早く後ろへ跳んで何かから逃げた…それと同時にタマの手元、つまりタッディアがいた場所を通って投げられたはずの短木剣が帰ってくる
「糸の汎用性がハンパねぇな!」
短木剣には未だ蜘蛛の糸が付いていたのだ、投擲された短木剣はさっきの超加速と同じ要領で糸の伸縮性を利用して投げた時以上のスピードと威力で帰ってきた。それを顔の横に何かがあるという気配だけで察知したタッディアは後ろに跳んだというわけだ
「うぅ〜…むずかし」
暗殺が主だったタマにとってこれだけ長く遊んでくれる相手はアンドリューに続いて2人目だ、たくさん遊べて楽しいが殺し方は知っていても戦い方は知らない。つまりどうすればいいのかリアルタイムで考え行動しなければならない、それ故の「むずかし」だ
「う、首かゆっ」
「っ!!」
だがそんなタマにとって最高の好機が訪れる、不意にタッディアが首をぽりぽりとかいたのだ。そんなの見せられたらもう猫まっしぐら、全身に巡らせる魔力を1段階濃くして餌に飛びつく猫のようにタマは短木剣を振り上げた
「ほいおしまいっと」
「にゃ???」
そしてあっさりと捕縛されてしまう、首をかいたのはわざと晒した隙であり演技、馬鹿正直に飛び込んでいったタマはタッディアにキャッチされそのまま流れるようにポーンと真上にリリースされたあと落下してきて横抱きにされてしまった
あまりに突然の事でタマは宇宙の神秘と交信しているかのような呆然とした顔をしたあとその表情のままスッとタッディアの顔を見て、そしてまた宇宙の神秘と更新した後たっぷり5秒ほどかけて…
「……まけ?」
「そ、お前の負け」
「ほわぁ…!!」
また宇宙の神秘と交信した
タマはまだ何がどうなったのか理解できずに呆然としていたが何か思い出したかのようにハッとしてタッディアの胸をぽんぽんと叩く
「ん?なんフガッ」
「ひきわけ?」
「なるかアホ」
「あわぁ〜…」
なんだと顔を向けたタッディアの鼻へと容赦なくペチンとフカフカの肉球を叩きつけ、これアリ?と言いたげに可愛らしく小首を傾げるタマだったが残念ながら不意打ちの申請は通らなかった
再び爆笑に包まれる三番隊だったがそっとオイタをする手を抑え付けたタッディアがにっこりとタマへと語りかけた
「よし、コイツらとも遊んでいいぞ」
『……えっ?』
「倒した数だけご褒美だ、OK?」
「いいのっ?!」
「あぁいいぞ」
「やたーー!!」
ご褒美をチラつかせられ「きゃー!」と無邪気に喜ぶ子供の姿を見せられては隊員達も拒否しづらい、何より怖気付いて逃げる選択肢を取るのはサイッコーにダサい…そう考えてしまって退くに退けないヤツらだと理解しているからこそけしかけるのがこのタッディアという男だ
「あっ、武器を取られるか倒されたと判断したヤツから走り込みに合流な」
それから10分、永遠に走らされて人とは思えない悲鳴をあげ始めた仲間のためにプライドをかなぐり捨てた数名の隊員による姑息な囲い込み悪質タックルによって捕縛されたタマに倒された隊員は組み手に参加した全34名中26人、見事明日からの訓練メニュー更新が告げられた
「たっでぁ!たっでぁ!ごほーび!ごほーびー!」
「おうおうおう、そんなはしゃがなくてもちゃんとやるって…何がいい?」
「んーと、んーと…くれるだったら、ぜんぶ、なんでもうれしぃぃ〜…!」
「おいおい、簡単にそんなこと言っちまうと悪〜い大人にひでぇ事されちまうぞ?」
「ひでーこと?」
「あぁそうさ、ボコボコに殴られたりとか、メシ抜きにされたり…あーー…まぁそんな感じの」
「それはひでーこと?」
「そりゃひでぇだろ」
「そっ……かぁ…?でもでも!くれるだったらなんでもうれしい!!」
そう言ってタマは花が咲いたように笑う、だがその無垢な笑顔が逆に全員の胸を締め付ける
実はタマの事情も境遇も既に王宮騎士団には共有されている、しかし彼らからすれば戦場や国防のような命のやり取りの中では少なからず似たような理不尽は日常茶飯事、故にタマに対して過度に同情する気持ちはなかった
「たっでぁ?」
「あ、あぁ悪いなイジワル言っちまった」
「いじわる?」
だが本能で身体強化魔法を発動させる程に野生的な賢さがあるタマが暴力という原始的な苦痛を暴力だと認識できないほどに根深く調教済みである事がわかってしまった、過度な同情は武器を持つ手を鈍らせてしまう…だからこそどんな痛みに対しても距離を保った思考を持つ事が必要である
しかし無垢な笑顔の裏には無数の傷が刻まれ、夥しい血が流れ、そしてそれを苦痛だと理解する事すらさせてもらえなかった現実を書類ではなく目の当たりにして尚それを無視できるほど彼らはドライにはなりきれなかった
転んだ痛みで大泣きしてもおかしくない幼子にしか見えないタマの裏に垣間見えたその深い傷とそれを傷だと認識してすらいない無垢な笑顔が彼らの胸に突き刺さった
「——じゃあ“パパ”もいじわるだった?」
タマの言う“パパ”の事も理解している、国を守るために努めてきた騎士団が追っていた小さな命、だがそれは命懸けで守ってきた国の中にいた守る対象でもある貴族の醜い悪意によって踏み躙られ、被害者本人は踏み潰された事すら理解できずその踏みつけてきた足へ愛情を向けているのだ…
そんなのってあんまりだろう。
「そりゃあもうめちゃくちゃイジワルだな、俺らならボコボコにしてる」
だから思わず口をついて出た言葉は本心だった
常に余裕を絶やさずどこかテキトーな印象を与えるタッディアだが情けや私情を仕事に持ち込むことを最も嫌うのは彼で、そして王宮騎士団の中で一番子供が好きなのも彼だった
だがそんな思わずこぼれてしまった子供好きの本音にタマは声を張り上げた
「ダメ!!」
「おぉ?!」
「“パパ”たちいじわるだけど、でも“パパ”だから…えっと、えっと…ゆるすしてあげて…ほしくて…えっと」
「……あぁ、わかったよ」
「よかったぁ〜…ありがとたっでぁ!」
「ほれ、そんな事よりご褒美の時間だぞタマ」
「ごほーびっ!!あいー!」
「走ってるヤツも道具片付けて汗流してこーい、飲み行くぞ〜!」
全員が胸中に浮かんだ全ての言葉を飲み込んだ、世間一般が悪と判断していても目の前の被害者である子供はそれが悪では無いと思っている…そう思うように歪められてしまった
ならば無理にそれを否定しても事実の押し付けだろう、それがどれだけ許せない悪であってもだ。
「のみー?」
「おうよ、大人の世界ってやつさ」
「ほわぁ〜…!!」
今はただこの怒りを酒で飲み下そう、そう決めて彼らはアンドリューの許可を得に行ってタマを外に出すのはまだ早いと叱られて泣く泣く三番隊の屋敷にて大騒ぎの宴を開いた
「たっでぁー!たのしいねー!」
「だろ?俺は戦うよりこっちのが好きだ」
「タマもー!」
宴は深夜まで続き、タマを夜中まで大騒ぎに巻き込むなと迎えにきたアンドリューに説教をされる三番隊なのであった
ちなみに王都の菓子はそれなりに高い、ご褒美をこっそり倒した隊員の人数分の何かしらから宴会にすり替えたのは流石の手腕と言えよう
そして後日、正式に取り調べという形で三番隊の多くがちょびーっと過激で刺激的な尋問をして捕らえられていたゲドゥー一派は泣きを見るのであった