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奥様が旦那様に興味を持つ作戦、その①-1

 私が旦那様について知っていることといえば、フォンダン侯爵位を若くしてお義父さまから受け継いだこと、王都騎士団の騎士団長をやっていること。

 そして普段は無表情で寡黙だけど、夜会などでは饒舌であること。


「やっぱりそのくらいじゃダメよね……」

「もちろん、もっと知る必要があると思いますわ!」


 一日の支度をしてもらいながらそう呟くと、リズがさも当たり前と言わんばかりに答えた。

 昨夜リズと話していて、自分がいかに旦那様に対して興味を持っておらず、旦那様のことを何も知らないということに気づいた私は、リズ先導のもと、新たな作戦を始めることになったのだった。


『奥様が旦那様に興味を持つ作戦』。


 そもそもの話、私自身の目的としては、政略結婚である旦那様が私に愛情を持っているのか、というものだった。

 とはいえ、上っ面の感情を知ったところで意味はない。

 これから何十年と長くいるのだから、本心を知って、それから判断したい。

 ……と思っていたのだが、そもそもとして私自身があんまり旦那様に興味を持っておらず、愛情を確かめる前に旦那様のことを知ろう、となったのだ。


「幸いにも、旦那様は今日お休みと、ジェイクから聞いております。お休みの日は旦那様と長くいられますから、きっとたくさん知ることができると思いますわ!」

「そう簡単に行くかしら?」


 自信満々に言うリズを鏡越しに見ながら、私はかすかにため息をついた。



 そうして朝の支度を終えた私は、いつも旦那様のいるダイニングへ向かったのだが――


(すごい……視線を感じるわ……!)


 とりあえず少し離れたソファに座って編み物を始めた私に降り注いだのは、旦那様の鋭い視線。

 普段の旦那様は、難しそうな専門書を読みながら、紅茶を飲むことが多い。

 ただ今日は、専門書を読むどころかそもそも何も持っておらず、私をじっと見つめている。

 これでは編み物に集中しようにも、集中なんてできない。


「だ、旦那様?」

「ああ」

「……どう、されましたでしょうか……?」

「……いや」


 このやりとりも、すでに3回目なのだ。

 おかしい。

 すぐに旦那様のことを知ることができるとは思っていなかったから、ひとまず今日は旦那様の読む本で話題を広げようと思っていたのに……!

 ちらりと部屋の端にいるリズに視線をやる。

 しかしリズは額に手をやり、呆れたご様子。

 はたしてそれは私に対してなのか、それとも普段よく悪態をついている旦那様へのものなのか。

 わからないけれど、あまり好印象ではないことはたしかだと思う。


(だけど、編み物をしているだけじゃだめだわ!)

「旦那様!」

「……ああ」


 思い切って、こちらから話題を仕掛けることにした。

 しかしとくに話題はない。

 すぐに不自然な沈黙がダイニングを支配する。

 その間も、旦那様の視線がじっとこちらを見つめている。


(やっぱり無理かも……!)


 心が折れそうになり、思わず俯く。

 すると今自分が編んでいる編み物が視界に入った。

 もうこれしかない。そう考えて私は顔を上げ、旦那様の視線に対峙した。


「い、いま私は、何を作っているでしょう!」

「…………」


(なんで急にクイズとか始めちゃったの私!!!!)


 旦那様も急に質問されたからか、ついに鋭い視線を私から外して考え込む。

 鋭い視線が外れたのはいいけど、今度は気恥ずかしさで編み物を進める手が動かなくなる。

 ちなみに答えは、今度の冬前に旦那様に渡すための手袋。

 気温が低い日に旦那様が騎士団のお仕事に向かうときは、使い込まれた濃茶色の革手袋をして出かけることが多い。

 ただこの間のようなお出かけのときに、普段の服装に革の手袋というのは、やや浮いてしまう。

 だから、プライベート用として手袋を作っていたというわけだ。

 あまり普段から編み物をするわけではないので、難易度の低いミトンタイプのものだが、旦那様の持つシンプルな色味の服装に似合うようなものにしたいと思って、色は紺色を選んだ。

 現在は指をいれる部分ができあがって、もうそろそろ手のひらのところに差し掛かろうというところ。だから見ようによっては、小さな帽子に見えなくもないかもしれない。


「ふむ……」


 俯いて考え込んでいた旦那様だが、しばらくすると顔を上げてじっと作りかけの手袋を見つめはじめる。

 そこから約数分。旦那様は黙ったまま考えに耽っていたが、やがてこちらの様子を窺うように口を開いた。


「……青銅器?」


………………なんて?

次話→3/22 22:00ごろ。

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