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数本目 (1)

 

 一言でいってしまえば、王子様の気紛れなのだろう。次の週も、その次の週も、アメリーは彼に言われるがまま、大人しく第二図書館へと通った。



 “逢瀬”の流れはいつも同じ。ロベールは入ってすぐの広間でアメリーを待っていて、彼女が到着すると奥の小部屋に移動する。窓辺の椅子にて一本の煙草に火を点けるロベール、それを眺めるアメリー。


 煙草の火が消えるまでの数分間、世間話でもするかのように、彼は毎回アメリーにいくつかの質問をした。出身はとか、兄弟はとか、どうして図書館員を目指したの、とか。さほど打ち解けていない相手に対して一方的に投げかけるには、少々無遠慮にも思える質問の数々。


 それでもアメリーが不快に思わなかったのは、彼が飄々(ひょうひょう)と、まるで天気の話でもするみたいに訊ねるからか。それともやはり、王族には何を問われても答えるべきという、潜在的な意識があるからか。



 そうした小さな質疑応答が積み重なり、いつの間にかアメリーは、彼に対して自身の身の上を語るような形になっていた。




 この国には昔ながらの貴族制度のようなものがあるが、その暮らしぶりは様々。

 片田舎の領主であるアメリーの生家は、決して貧しくはないにせよ、裕福とまではいえない。先祖代々の土地を管理しながら、身の程を(わきま)えて慎ましく暮らしてきた一家である。


 アメリーはその末娘で、兄が一人、姉が二人いる。慣習に則れば、息子が家を継ぎ、娘たちはそれぞれ他家に嫁いでいくのが当然。

 しかし、時にはそうした当たり前のことが難しい場合もある。お金の問題だ。


 娘を一人嫁に出すには、それなりの支度金が要る。そこには、より良い縁談相手を見つけるため社交場に赴くとか、相手にとって魅力的に映るよう着飾るなどの費用も含まれる。それを娘三人分。さほど余裕があるわけではない実家でこれがどれだけ大変か、アメリーは十分に理解していた。



 幸いなことに、女性は結婚さえすればいい、そうした時代の価値観は変わりつつあった。外に働きに出る女性の存在が、少数ではあるが認められ始めていた。


 この国における貴族階級の女性はたいてい十八歳頃、遅くとも二十歳までには縁談が纏まるもの。けれどもアメリーは今年で二十一歳。こうした年齢的な事情もあり、両親は結婚に興味を持たない彼女のことを心配していた。

 一方で、当のアメリーは特段焦ることもなく、自分に合った進度で働き口を探していた。



 アメリーが図書館員を志したのは単純な理由から。本が好き、ただそれだけだ。

 姉たちが社交場での噂話やお洒落に勤しんでいる間、彼女は自宅の書斎にこもって延々と読書を楽しんでいた。


 元々アメリーの家系には読書家が多い。田舎で細々と領地を守り続ける彼らにとって、本は唯一の娯楽だったのかもしれない。受け継がれてきた書斎には、歴史や風土を記す専門書から、心躍る冒険譚から、流行の恋愛小説から、ありとあらゆる書物が並んでいた。


 せっかく働きに出るなら、大好きな本に囲まれて仕事をしたい。運よく願い叶って、アメリーは王城図書館にて勤務できることになった。

 家計を考慮して働く道を選んだアメリーに、彼女の父がせめてもと見つけた伝手(つて)からだった。女性の幸せである結婚を諦めさせることになり申し訳ない、父親はそう思っているようだった。



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