番外編:本編完結後の小エピソード+イラスト
本編完結後のおまけとして、ちょっとした日常の一部分的なお話+イラストです。
イラストは、最近はまりつつあるAI生成に加筆修正を加えたものです(苦手な方はお避けくださいませ)。
大半は、別作品も含めたイラスト置き場:「AIイラストやってみました」の連載ページに置いているものですが、せっかくなので、完結記念としてここだけのものも入れました。
よろしければ見てやってくださいませ。
まずは、番外編的日常の一コマからどうぞ。
「――だから、来週は会えないんだ」
アメリーが週に一度の“妃見習い”を受けるようになってから、幾度目かの水曜日。
何かと理由を付けて毎週様子を見にやって来る彼女の婚約者は、しみじみ残念そうに告げた。次の水曜は公務で城を留守にするため、彼女の元へ顔を出すことはかなわないという。
「わかりました」
「もっと、何かないの。こう……、寂しいとか」
「…………」
ちらりと上目がちにどこか恨めしげな視線を送られ、アメリーは思わず顔を背けた。
――この人は、わかっているのだろうか。その美しく整った顔面に、浮かべた表情の一つ一つに、どれだけの破壊力があるのかを。
ひょんなことから彼に出逢い、求婚を受け、一応恋人同士ということになるのだと思うが。
顔を合わせるのは週に一度、限られた時間だけ。出逢った頃のように煙草に換算するなら、一回は数本分といったところか。きっぱり断煙した彼が、それを手にすることはもうないけれど。
そうした短い“逢瀬”が一週間分飛んでしまうとなれば、アメリーとて寂しくないと言えば嘘になる。
けれど、言えるはずもない。自分には生涯縁がないと考えていた恋人なる生き物に、どう接すればよいかなんて彼女にはわからない。
背けた顔をおそるおそる元に戻すと、彼はまだ同じ表情のままアメリーを見つめていた。
自らの優位は当然と、いつでも余裕たっぷりの微笑とともにあるくせに。時折こう拗ねた子どもみたいな瞳をされると、アメリーの胸はぎゅっと掴まれたように僅か苦しくなる。
「あの、例えば休日なら。土曜や日曜は図書館の仕事もないですし、……会いに来られると思いますが」
耐えかねて、彼女は声を絞り出した。だがそれは尻すぼみにかすれてゆく。
――何を言っているのだろう。一癖も二癖もあったとして、彼は曲がりなりにこの国の王子。きっと忙しいでしょうに。時間があるとしたって、ゆっくり休みたいはず――。
頭の中にぐるぐる思いが巡り、浅はかなことを言ったと恥ずかしささえ覚える。
しかし、そんな彼女の逡巡は全く意味をなさなかった。
「え? せっかくの休日なのに、わざわざ来てくれるの。妃見習いの授業もないのに」
「それは、私は大丈夫ですが、でもロベール様はお忙しいでしょうし今のは忘れて……」
「いやだ」
慌ててアメリーが先の提案をなかったことにしようとするのを、ロベールは満面の笑みで遮った。
「どんなに忙しかったとしても、僕が君以上に優先する物事はないよ」
「…………」
「じゃあ、来週は水曜じゃなくて土曜か日曜に。予定を確認してすぐ連絡するから」
にこにこと流れるように話をまとめ、さっきまでの不機嫌さは演技だったのではと、彼女が目を見張るまでの変わり身の速さ。
……演技というか、きっと計算のうちなのだろうな、とアメリーは思う。
結局は彼女がそのペースに乗らざるを得ないことを、この麗しい王子は十分に理解している。
困るのは、こうまんまと丸め込まれるのが常ながら、アメリー自身それを厭わしいとは微塵も感じないことだ。
彼が思いどおりの状況を得て屈託なく笑う顔は――愛しいとすら感じてしまう。そんなこと、絶対に口にすることはできないけれど。
ひとまず、先ほどの含んだような視線から解放されて、アメリーはそっと心の中で息をついた。
……かと思えば。
彼が浮かべた無邪気な笑みは、いつしか妖艶なものへと変わっていた。
「休日に機会を作って会うということは」
「……え?」
「時間はあまり気にしなくていいということだね、これでも今までは君の勉強に配慮していたんだけど」
「ええと、」
「こんな、すぐに侍女の出入りがあるような部屋で会う必要もないし」
「それは、どういう……」
にやりと、一際妖しく彼は微笑んだ。
その瞳の奥に、アメリーは燃え上がる炎の存在を認める。息が止まる。
一瞬にして、彼女は自身の発言の不用意さを省みたが、もう遅い。
「……覚悟しておいてね」
耳元で囁かれる声は、甘く。同時に恐怖ともいえる感覚を伴いながら、ぞくりと背を伝う。
見る間に首筋まで真っ赤に染め上げた彼女を映して。燃えるほどに輝くふたつの緋い瞳は、満足そうにゆっくりと細まった。