一本目 (1)
アメリーが偶然にも、彼――この国の第二王子であるロベールと出会ったのは、約二か月前のこと。
その日は、人が滅多に訪れないこの第二図書館に用事があった。
第二図書館は、元々は唯一のものとして王城の図書館機能を担っていた。
しかし、容量等の観点から現在の第一図書館が新設されると、館員の執務室や重要な書物は全てそちらに移された。活躍頻度がごく低い書籍たちと共に、第二図書館は倉庫として残された。
それでもごく稀に、第二図書館に所蔵する書籍が必要になることがある。
アメリーはその日、館長に頼まれて、いつものお使い帰りに第二図書館に立ち寄った。
ええと、この辺りは医学、工学……。もう少し奥の棚かしら? それにしても、ちょっと埃っぽいわ。ほとんど使わないといっても、多少は掃除したほうがいいんじゃないかしら。
そんなことを考えながら、アメリーは本棚を見ていく。
彼女はお目当ての書籍を求め、入ってすぐの広間を抜けて、二つ目の広間に入った。
――そのとき。薄暗い図書館の奥に何者かの影が揺らめくのを、彼女は見た。
アメリーは立ち尽くした。
彼女が入ってきたとき、図書館の鍵は閉まっていた。
ここは基本的に人の立ち入りがなく、見張りもいない。そのため普段は鍵がかかっている。だからアメリーは館長が管理している鍵を預かり、それで入ってきた。そのあとで、内から鍵を閉めたはず。
――じゃあ、あの影は何? 盗賊? 害獣? それとも、幽霊? ……一旦、落ち着きましょう。
アメリーは目を閉じた。
最近忙しかったから疲れているのかもしれないわ。念願の職にありつけたからって、張り切り過ぎてしまったかも。
ここは樹々に囲まれているから昼間でも薄暗いし、明かりは切れているみたいだし。見間違い、ええ、そうかもしれない――。
そうしてアメリーは何度か深呼吸をした。
吸い込まれる空気はやはり少々埃っぽい。が、その現実感溢れる匂いがかえって落ち着きをくれる。
少し経った後、彼女はそっと目を開けた。
目線の先で、影が再びもぞりと動いた。