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数本目 (4)

 

「どうしてわざわざ、お好きなふりなんか……」

「だから、好きだよ、芸術はそれなりに。……ただ少し、誇張してるんだ」


 腑に落ちないといった表情を見せるアメリーに、彼は肩をちょっと(すく)めてみせた。


「可愛い弟でいるため、かな」




 その翌週、彼はアメリーに、幼少期のとある出来事について語った。



 僕たちがまだ子供の頃、父上――今の国王陛下が、(たわむ)れに訊ねたんだ。兄上に、詳しい内容は忘れちゃったけど、国内の政策か何かに関して。これこれこういう状況で、こんな政策をとろうとしているがどう思う? とかって。


 兄上は回答した。子供なりにも、王子として及第点の答えだったと思う。

 でもそれを隣で見ていた僕は、もっと良い案があるのになあって思ってて。幼かったから、無邪気に口にしてしまった。


 父上は僕の考えに驚いて、感心してくれたけど。年端も行かない弟から合格以上の答えが出たものだから、大袈裟に褒めすぎたんだ。

 その様子を見た兄上の顔から、さあって血の気が引くような気配を感じた。まずいことした、って直感的に思ったよ。



 そこまで話が進んだとき、アメリーの(ひたい)には怪訝そうに(しわ)が寄った。それを見て、彼は、改めて念を押すように言った。


「勘違いしないでほしいのは、兄上はそんなことで弟を憎むような人じゃない」


 アメリーはいつの間にか、自分がひどく難しい顔で話を聴いていたことに気づき、ハッと表情を緩めた。

 その様子を確認して、ロベールは続きを話し始める。



 兄フェルナンは優しい人だ。でもだからこそ僕は、それで兄上が落ち込んだり、自信をなくしてほしくはなかった。


 長子相続が基本のこの国で、大した理由もなくそれが覆されるのはよくない。無駄な派閥や争いを生みかねないからね。

 正直言って、兄上の政治の才はない訳じゃないけど……、特別優れてもいない。三歳も下の弟が、間違っても彼より秀でてはいけなかった。


 だから僕はなるべく目立たないよう、のらりくらりと政務も顧みず、気ままに芸術を愛でる第二王子をやっているというわけ。とはいえ、不出来過ぎだとそれはそれで色々面倒だから、公の場ではちゃんと「王子」をしているよ。



 一通り話を終えたロベールは、目を細くしてにっこりと笑顔を作った。




 ――目の前のこの人は、聡明な王子(ひと)だ。アメリーは思った。王家の事情や、ひいては国のことをきちんと考えている。

 そして同時に、生まれついた環境において、周りの想像よりはるかに気を遣いながら生きているのだろう、ということも。



「あー……、なんか喋りすぎちゃったな」


 終わった話に感想を述べることもせず、アメリーは真剣な表情のまま、じっと彼を見ていた。それに気づいてか気づかずしてか、ロベールは茶化すように言ったあと、そっと煙草の火を消した。



 細く開けられた窓の隙間から、(ほこり)を被った図書館に一筋の風が侵入してきた。


 最新技術で抑えているという、普段は届かない煙草のにおい。それが微かに、鼻先で香ったようにアメリーは感じた。

 抱いていたイメージとは異なる、決して不快とは思わない香りが。



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